約束の午後8時-のちょっと前、ティフォは喫茶店【リフェール】にいた。
約束時間の5分前には集合場所に到着するのが彼女の中の【自分ルール】で、それを破ることは決してない。
少ししてからレグジェがカランカランと喫茶店の入口のインテリア-もとい可愛らしいベルを鳴らしながらやって来た。
-それで、と言われても。
だが、妙に思う。この話、前もレグにした気が……。
ティフォはどこか奇妙な、数万年生きてきて初めて味わう慣れない感覚に不安になったがレグジェが普通そうにしていることから、どこか自分の機体に不調でもあるのだろうと思った。
そう言うとレグジェは姿を消した。
無銭飲食だ、なんてティフォは思ったが持ち金が足りそうだったことに胸をなで下ろし、気を改めた。
海底都市エリシア・エリシェーンにて合流、ということを忘れずに-いや、忘れるわけがない。
ティフォは解析、観測、模倣に長けた機械【ペルシュレーゼ】。半分機械の彼女の脳はとりわけコンピューターのような脳をしているのだった。
オルストラ・ユアンジェン-リル・フェアリエルの鉄鋼都市。レグジェはそんな鉄鋼都市で毎晩開かれる夜市の人集りに出会した。
たまたま見かけた【灰色】の目付きがどこか不自然だと気付き、レグジェ-【聖魔神】の特殊能力のひとつ、読心術を発動させた。
-ふむ、どうやら私のことは気付いているようだね。
じゃあ-とレグジェはフルーツオレ片手に灰色に声をかけた。
敢えて何も知らないフリをして、レグジェは聞く。
その目は何を語る?-嘘を語るだろう。
その口はどう開く?-あぁ、真実から逃れるために開かれるだろう。
その心はどう動く?-右に左に、困惑して右往左往するだろうね。
それをお前はどう見る?-よく観察するよ。逃げ場を与えられないようにする為に、ね。
さぁ語れ、愚者よ。我【魔神位階序列】【最下位】【聖魔神】さえも気付けない嘘を語れるというのならな-っ!
デュロエ・エルフィエンといえば-南西にある、決して裕福とは言えない都市。南西端はスラム街が見事に出来上がり都市を統治するのが誰なのか、もう私ですらわからない。たしか星を詠む魔神位階序列5位の【星魔神】(スパークルファージェン)の少女-カタリス・エルグレイアが統治者だった筈なのだが………恐らく星詠に没頭して自分が統治者であることも忘れているのだろう。
それだけ言うとレグジェは転移魔法で姿を消した。
デュロエ・エルフィエン-世界で最も荒廃した都市。
世界で最も不憫な都市。世界で最も貧相な都市。
都市の大半がスラム街で構成されたそこは疫病蔓延都市と呼ばれた時代もあったそう。…とまぁ、そんなことは置いといてとレグジェは脳内で先程出会った灰色の青年の言っていたことを整理する。
まず、ここデュロエ・エルフィエンは最近灰色が急増した。そして、人体実験が行われている。
一見普通に大切な情報に見える。
だが……何かが引っかかる。
普通に考えてみろ。
人体実験なんて知られたら大事態になりかねないことをなぜ彼は易易と口にした?
…………おかしいんだ。
あたしが、じゃなくて…あの青年が。
なにか引っかかる。
そしてそれは野放しにしていれば世界に大混乱を招くだろう。
-未来を見透すというチートに近い能力がそう告げている。
だから、自分の視る未来は絶対で、絶対に予知は外れない。……その未来がたとえ、どれだけ悲しい未来であってもだ。
魔法生命体-その中でも殆ど魔法に近い存在のレグジェは死ぬ事は無い。魔法は永遠に続くのだ。だから、未来永劫に続くこの世界をいつまでも見守るしかない。
-たとえそれが、大好きな人がいなくなったとしても。
この世界の、最果ての世界の理は絶対で、あたしという魔法でも変えられない。
-ならどうするか。
それは至って簡単だろう。
世界に大混乱を招くそれが完成する前に潰せばいい。
発見したなら潰せ。
潰せなかったら終わらだと思え。
我等七魔神、この最果ての世界の他にまだ世界があった頃から在りし魂。
闇、天、狂、呪、星、夢-そして聖。
それらの頂点に君臨せし我等の争いはとうの昔に終わってはいるのだが-未だにその名残、位階序列の低い魔神を見下すことはある。
だから、あたしにはティフォが異常だとはじめは思った。
何よりもあたしは最下位で、しかも1度死んで今こうして魔法生命体の身になっている。
だから、だからこそ不思議、異常だと思った。
無気力で無気質なその眼で、魔法で出来たあたしを見る。-あなたにはどう映っている?初めて会った日から、随分経つのに未だにその疑問があたしの心の奥に残っている…………。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。