side Red.
「さてさて帰ってきましたけども」
「とりあえずは手当かな。向こうでは応急処置しかできてないし」
おれ達は普段、事務所として使っている廃ビルの1角と、住居として使っているそこそこ良いマンションの2つを生活拠点にしている。
今回は家に帰ってきた。ここなら手当用のものは一通り揃っているから。
「じゃあ、手当してる間に自己紹介もしちゃおうか」
いつも手当係のジェイドさんがリンの手当を始めながら提案する。
「はい!じゃあおれから!
おれの名前はロート。17歳で、武器の手入れと改造が趣味!あとゲームも好きだよ〜。能力はご察しの通り炎を操ること」
「次は俺だな。俺はアレキ。21。趣味は…そうだな、バイクやら車やらを乗ったり弄ったりすることだな。能力は水を操ることだ」
「僕はジェイド。24歳でーす!趣味は裁縫かな!ぬいぐるみとか作るのが好きだよ。能力はデータベースに意識を介入することができる」
簡単に自己紹介をするおれ達に続いて、リンも自己紹介をする。
「私の名前はリン。15歳。ええと、趣味と言えるほどのものはないけど、お料理やお菓子作りが好き、です。歌うことも。あと能力は、視認したものを動かすことです」
「あ、敬語じゃなくていいよ〜」
「そう…?」
リンはおずおずと答える。
「うん!よろしくね!リン」
「そういや、リンの利き手ってどっち?おれ咄嗟に右手撃っちゃったけど大丈夫そう??」
そう。気になっていたんだ。
もし利き手だったら、しばらくは日常生活に支障をきたす可能性だってある。
「大丈夫。一応右利きだけどどっちも使えるから」
「へー!すごいねぇ!それも親御さんに鍛えられたの?」
ジェイドさんが賞賛の言葉を口にする。
「……えぇ。まぁ」
けど、リンはあまり嬉しそうにはせず淡々と返答した。
…親の話は地雷なのかもなぁ。
ちらりとジェイドさんのほうを伺ってみると、申し訳ないことをした、みたいなしゅーんとした顔をしていた。ほんとにこの人は24歳なのか??
「……」
兄貴は依然として黙ってリンの話を不思議そうに聞いている。
かと思いきや唐突に口を開いた。
「なぁ、リン。俺達は半ば無理矢理お前を連れてきたわけだが、俺達はお前の父を殺しているし、お前に向けても銃口を向けた。そのことに関して、恨みなどを持っていてもいいと思うんだが、お前は一切そんな素振りを見せないな。…なぜだ?」
なるほど。それをずっと考えていたのか。
…兄貴らしい。
思ってみれば兄貴の疑問は至極当然だ。
「なぜか、と聞かれても、私自身あまりわかっていないの。…でもきっと、主人に執着を持っていないからだと思う。貴方達に恨みの念は持っていないわ」
「…ほぉ。」
「まあ今はまだ話しづらいことだってあるでしょ?そのうち話してくれればいいよ。ね」
ジェイドさんが少し話しづらそうにしていたリンを見て言う。
「……そうだな。焦っても、何もいいことはないか」
兄貴も、これ以上の詮索は意味がないと思ったのだろう。ため息まじりに言った。
なんせジェイドさんの言葉だから、兄貴もそう変に
反論することはなかった。
「じゃあ事務所の案内でもする?手当も終わったみたいだし。」
一人がけのソファーに座るリンの横で、包帯やら湿布やらを貼っていたジェイドさんが腰を上げたのを見て言う。
「そうしよう!」
賛成の言葉が出たので移動しよう。
「車出してくる」
兄貴がそう言って、リンの頭をわしわしとかき混ぜてから車の鍵を持って玄関に向かった。
「……ふしぎなひと」
玄関に向かう兄貴とジェイドさんの背中を見て、リンがそうつぶやいていた。
――――
新しい仲間へのご挨拶と手当が終わったので、おれ達は家と事務所の案内をすることにした。
「んで、ここが武器庫。いろんなのが揃ってるよ〜。リンは向こうでハンドガンとかぜんぶ捨てて来てるよね。好きなの取ってっていいよ!」
「なんで捨ててきたんだ?」
兄貴の疑問にリンが答える。
「あれは…ぜんぶ主人から貰ったものだったから。あの人からの贈り物なんていらないもの」
「僕びっくりしちゃったよ。すげぇ量のハンドガンやらナイフやらが出てくるんだもん」
それにはおれも驚いた。けっこう驚いた。
だがそれよりも、前々から気になっていたことを口に出す。
「……リンはさぁ。なんでオトウサンのこと主人って呼ぶの?」
兄貴やジェイドさんもあぁ、とか確かに、とか口々に疑問を零す。
「っあ…。あの人は、その、私にとって父というよりも、主人、マスターのようなものだから」
少しつっかえながらも、リンは答えてくれた。
「そんなもんなの?」
「そんなもん、だよ」
そっかぁ〜…と流しながらも、違和感を感じた。
肉親だぞ?アレはリンによっぽどの事でもしたのだろうか。
「…ねえ兄貴。どう思う?」
「なにがだ」
「リンのこと!」
「あぁ。まぁ確かに、普通は親のことを主人だなんて呼ばねぇよな。なんか違和感感じるんだよな〜」
「だよねぇ〜?」
リンはおれ達の後ろでジェイドさんと能力のことやらなんだか女子力の高めな話をしている。
ちょっ、ジェイドさんはなんでついていけてるの。
まあいいかと、その時は思っていた。そのうちリンが自分から話してくれたらいいか、と。
しかし、「よっぽどの事」は、実際にあったのだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!