side Red.
「…失礼するよ」
「いらっしゃい。今日はどんな御用で?」
おれ達は基本、事務所で依頼を待ち、そしてやってきた依頼を報酬と内容によって承諾している。
そうやって金を稼いできた。
そんな依頼のなかには、殺しや違法なものの密輸なんていうアブナイものもある。
だがその反面、迷子の捜索やベビーシッターなど、そんな平和なものまでうちには依頼が舞込んでくる。
何から何までなんでもござれだ。
「ここから500km北西、コロラド・トリニダードにとある研究所がある。
そこで、新型のウィルスが国家機関の援助のもと開発されているらしい。
その研究所の破壊、そしてウィルスの奪取だ。」
ジェイドさんが受付、兄貴が依頼の是非を決め、おれが依頼主の選定をしている。
中にはおれ達を狙ってくるやつがいたり、報酬を払わないやつがいたりするから。
そして随分と物騒なことを淡々と喋る依頼主の依頼内容に、兄貴は眉間に皺を寄せ、いかにも嫌だと言いそうな顔をする。
「これまた随分と危険な依頼だな。
それで?その新型のウィルスというのは具体的にどういう効果があるものだ?」
「少々説明が難しいが、簡単に言えばゾンビ化、アンデッド化を可能にさせるウィルスだ」
「ほぉ?それは興味深い」
皮肉げに兄貴が言う。
ゾンビ化だなんて、国家はとんでもないものに手を出し始めたなぁとおれすらも呆れ半分だが、そんな物を作ってどうするつもりなんだろうか。
「そんなことが実現してしまったら、今でも無秩序な腐った世界だというのに、さらに混迷を極めることになる。我々はそれを防ぎたい」
「…失礼だが、あんた、何処のやつだ?」
「なに、弱小民間軍事団体の者だよ」
「…」
「は。そうかよ」
明らかにそんな雰囲気の男じゃない。
…恐らく、隠す気もないんだろうが。
「じゃあ次だ。
なぜ俺達なんだ?現地の奴らじゃ駄目な理由でもあるのか」
「向こうの奴等では歯が立たないんだ。
既に数回襲撃を試みたが、全て失敗に終わっている。
そこであなた方の噂を聞きつけ、この方々ならあるいは、とね」
「…おだてるのが得意なようだな」
「そんな事を僕らに頼んで、勝算はあるのかな」
ジェイドさんが男に問う。
「もちろんだとも。
見た限りでは君達は少数精鋭だろう?彼処は決して広くない。
大人数で押しかけると見つかるリスクが高くなるんだ。そして見つかると警備隊や能力値の高い者たちで構成された特殊部隊までやってくる。
噂で聞いた限りでは、君たちは随分と能力値が高そうだからね。切り抜けられるはずだ」
「ふーーん?で、報酬はいくらなの?」
ジェイドさんが切り出す。
もう重要な事項は聞き出したし、承諾していいと考えたのだろう。
「そうだな、100,000$でどうだ?」
「………は??」
………んん???じゅうまん??桁一個多くない???
(100000ドルは現在のレートで約1110万円です)
「……いいだろう。
そこまで口説かれて承諾しないわけにもいかないし、このまま野放しにしておける話じゃないからな」
ため息まじりに兄貴が言う。
「感謝する。私はアンバーという。なにかあればこちらに連絡してくれ」
アンバーと名乗った男は、そう言って一枚の紙を机に置いた。
「詳しい位置や情報については、後日こちらから連絡しよう。それでは」
からん、と事務所のドアにつけているベルが鳴り、青年は帰っていった。
side Green.
「じゅうまん」
「やばいよな」
「やばいね」
「やばい」
えー、急激な語彙力の低下。
「……で?10万はさておき、研究所の襲撃なんてなかなかない依頼だね?」
「ん"ん"。そうだな。ゾンビ化のウィルスだなんて御大層なこった」
「じゅうまん」
「わかったから」
本題に戻したものの、ロート君はいまだ10万が頭から離れない様子。
「…あまり、良くないことなのはわかる。
心臓が止まっても、体が腐敗しても、それでもなお生き続けるなんて私にはむり」
「僕もやだなぁ」
リンちゃんが呟くのに賛同しながら、今回の依頼は失敗できないものだと再確認する。
「しかし、まだ詳しい情報がわかっていないからな。アンバーとかいう胡散臭い男の連絡を待とう」
アレキ君の言う通りだ。
このままじゃ作戦の立てようもないし、とりあえずは待つしかない。
「100,000$も出すなんて相当じゃない?そんなに危険なのかな。
それにあの人、どう見たって弱小なんかじゃないでしょ」
金額のことは頭から離れていないけれど、ロート君なりにちゃんと色々考えていたみたいだ。
「確かにそうなんだよな。
民間団体だとしても腕の立つやつなのはまず間違いないだろうな」
「ローブ被ってたから詳しくはわからないけど、筋肉の量とか手持ちの武器とかからして、あの人きちんと鍛えてるし所属団体も資金は十分にあるんだと思う。
提示額は多分無理のない金額なんじゃないかな」
「うんうん。
あとはおれの野生の勘なんだけど、あの人多分場馴れしてると思うよ。ふんいき的に」
リンちゃんは驚くほどにいい観察眼をしている。
この数分間であれだけの情報を引き出せたのだから、ロート君と同等レベルだろう。
「へぇ~、キミらほんとよく見てんねぇ」
僕はといえば、その場馴れの"場"が戦場だとか血生臭い場所でなければと願うばかりだ。
まあ、こんなご時世にそんなことは言っていられないのが現状だが。
「ふふん、まあね!」
ロート君は嬉しそうにふんす、と胸を張る。
「おまえのは野生の勘だろうが」
「ちょ、リンと考えが一緒だったの!!」
「そうかいそうかい」
「ちょっと聞いてる!?」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。