高良君たちが昼食を食べ終えて屋上から出ていった後、恵美に質問攻めされた。
一体いくつ質問されたのか、覚えていないくらいたくさんされ、質問が終わったのは昼休み終了のチャイムが鳴ったときだった。
そして私は放課後、いつも通りグラウンドへ向かった。
高良君に昼のような反応をされては、フェンスの周りにいらっしゃるファンの方々に暗殺されてしまう、と背後と高良君に気を付けていたが、練習中は練習に集中しているのか、こちらを見ることはおろか、一切ボールから目を離していなかった。
高良君の赤い目には、今ボールしか映っていなくて、どんなボールが来ても対応できるように、集中している……
正直、その部活に対する姿勢がとても美しいと思った。
そう思った瞬間、あるイメージが、私の頭の中でぼんやりと浮かび上がり、気付けば私も、スケッチに夢中になっていた。
そして、またもや部活に熱中しすぎて周りが見えていなかった私は、部活終了時間を過ぎてから、時計を見て驚いた。
またやってしまった、と心の中で苦笑いをしながら私は荷物をまとめ、美術室に戻ろうとした。
すると、少し後ろの方からここ2日間よく聞く声がした。
高良君の隣には、昼休みのときにもいたメンバーがいた。
高良君が、らしくなく、ごにょごにょしながら言う。
その瞬間、高良君の瞳がキラっと輝き、あるはずのない尻尾まで見え、またそれは大きく左右に振れていた。
後ろからオイオイといった感じで、高良君の友達が言った。
が、高良君は首を傾げ、こう言ったのだ。
一同その言葉を聞いた瞬間、口が開いた。
そして高良君は友達からもれなく総ツッコミを受けることになる。
はい、困ってます。
どうしよう。
私は元々男子とあまり話す方ではないし、気の利いた話もできないし、みなさん私と帰ってもきっとつまんないだろうな……
でも、ほら、見て。あの高良君の捨てられた子犬のような瞳を……!
弟が2人いて、さらに犬を飼っている私は、高良君のこの顔に弱かった。
そして、最終的には……
『子犬』に負けてしまったのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。