第7話

大切
105
2017/12/10 10:55
教室に帰ってくると
日向が窓際の私の席に椅子を持ってきて
お弁当を広げていた
日向
あ、あなたおかえりー
ちゃんとパン買えた?
あなた

あー、えーっと
パンは入手した

日向
何じゃそら、何パン買ってきたのー?
って!!それ!
オムそばロングパンじゃん!
どうしたの?!それ!
案の定、日向は私が持っていた
オムそばロングパンに
目を見開いている

そりゃあこんなレアもの持ってたら
誰でも驚くわな
あなた

えっと、そのー
話すとちょいとめんどくさい事に
なるんだけど
実はさー

そう言ってさっき起こった
あれこれをざっくり説明する

日向
えっ!!?!
あの誠先輩?!?!
あなた

あの……ってどの?

誠先輩とは今日知り合ったんだし
あの、と言われても
わかるわけがないと思うんだけど……

私に何かを求めないでくれ
日向
はぁーっ あなたはそういうの
疎いからなぁー
あなた

そーゆーのってどーゆーの?

いや、マジで
全くわからないんだけど
日向
誠先輩って言えば!
同学年にも後輩にもモッテモテの
学校の超有名人!!
あなた

あ、れ?
そうだっけ?

全く知らなかった
日向
あの長身でおっちょこちょいっていう
ギャップがいいってウケ抜群
しかも、容姿完璧 成績優秀
やばいでしょ
まじすか……
あのフワフワした雰囲気で成績優秀とか
想像全くつかん
あなた

全然知らなかった……

日向
あはは さすがあなただね
とりあえずお昼食べよ
あなた

うん

そう言って袋からパンを出そうとした時



いきなり





視界が







暗くなった
あなた

っ……!?



目の周りに 手の感触




後ろから





誰かが







目を覆う







フーッと耳に息を吹きかけられて

背筋が震えた




あなた

っだ、 れ……っ!

ふふっ 誰でしょう?
あなた

っん……っ



耳元で低く囁かれ
思わず身体に力が入る

本当に誰なんだって……っ!


不安になって余計に身体がこわばる


──とその時
日向
ばっかやろ!!



────スパコーン





────とても気持ちのいい音がした

いっっっってぇ!


男子のうめき声が聞こえたかと思うと
視界を覆っていた手が離れていった
あなた

……?

日向がさっきまで読んでいた
雑誌をまるめて
声の主をはたいたのだった

後ろを振り替えると
その声の主であろう男子が
頭をおさえてしゃがみこんでいる
日向
もー! 千草!
あなたにちょっかい出さないでって
何回も言ってるでしょ?!
確かにそこに居たのは
中学からの友達である
成原 千草(ナリハラ チグサ)だった
千草
いやー いちいち反応が新鮮だからさ
あなたは
面白がるのはいいが
面白がられる方からするとたまったもんじゃない

千草は時々驚く程に声が変わるから
あんな事をされるとびっくりしちゃうんだってば
千草
っつか! 日向痛いっ!
どんだけ強く叩いてんの!
日向
別に普通だと思うけど?
てゆーか日向って呼ばないでって
何回言ったらわかるの?!
日向は男子から『名前』を呼ばれることを
ひどく嫌っている
本人いわく
自分の好きな人にしか
名前は呼ばせたくないそうだ

日向は剣道の有段者で
中学の時は全国大会出場も果たしている

高校に入って剣道はやめたらしいけど
今でもその腕前は健在だ

日向の普通は……一般人には通用しない

日向を怒らせるとそれはもう
物凄いことになってしまう

軽く、窓ガラスの2、3枚は割れるだろう
日向
そんなにして欲しいなら
もう一発お見舞してあげるよ
もーほんとMだなぁ千草は
あ、日向の目が本気だ
千草
はっ?ちょ!おい、まて!!!
誰がいつもう一発欲しいなんて言った!!
つか俺はMじゃねぇ!
千草、ご愁傷さまです




────バシコーン




────清々しい音が教室に響き渡る

いつの間にか二人の周りには
たくさんのギャラリーが集まってきている




────バシコーン




日向の打った一本が
見事に千草の脇腹にクリーンヒットした

千草
ぅ゛いっ……!!


ギャラリーから歓声が上がる

と、同時に千草に対する
冷やかしの声も聞こえてくる


「おい千草ーっ 颯海にまた負けてるじゃんか!」

「男子でしょー? 女子に負けてどーすんの!」

千草
いや!そういう事は
これ一遍くらってから言え!
ちょ、マジで痛てーからっ!

そう言っている間にも
日向は容赦なく千草に攻撃を続けている

しかし、千草は反抗するどころか
まともにくらってしまっている


相変わらず、ギャラリーからの
冷やかしの声は止まないけれど

最近、少し分かってきたことがある

千草はどんな時でも日向に攻撃することは無い

というか、むしろ
日向を守っているようにも見える



とてもとても、大切なもののように

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