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第1話

四角少女の苦悩
20
2017/11/06 11:22
スクエア。
サークル。
テトラ。
大体のものは、これらで表現が可能だ。
ビルは基本的に四角、すなわちスクエアの集合体だし、
ボールは丸、サークルだ。
サークルとテトラ、いわゆる三角形を組み合わせれば人の顔も表現できる。たしか図形が顔に見えるのを…
シュミラクラ現象と呼ぶんだっけ?
とにかくほとんどのものは●▲■で表現できる。
ビルだらけの都会は特にその傾向が強い。
そんな世界中に溢れる図形なのだから、四角形を知らない人間なんてこの世にいないのではないか。
そして知らない人がいないために私はからかわれていたのではないかと、この私「鹿久菜緒」(シカクナオ)は考えていた。

始まりは小学生になる。
初めての図形の授業で四角形の表面積を求めさせられたあの時。
先生が「この図形の名前がわかる人ー?」と言った途端一人の男子生徒が大きな声で言った。
「はーい!四角でーす!ナオの四角でーす!」
ここまでは良かった…訳では無いが最悪ではなかった。
最悪なのは担任教師の一言である。
「あら菜緒さん、本当ね」
この瞬間から私は先生公認の四角菜緒になったのである。
先生公認がどういうことかと言うと、からかっても「先生だって言ってたじゃん」が通用するようになったということで、要するにからかうのに容赦がいらなくなるということだった。
お陰様で「お前身長何センチ?」というお約束の質問が「お前辺何センチ?」に進化したり、ドアを開けて教室に入ると「四角が四角から出てきた」などと言われてみたりするようになってしまった。非常に遺憾である。
他にも有りと有らゆる四角と関わるたびにからかわれていたのだが、高校生となった今ではよく覚えていない。
中学校に上がると一瞬ヒートアップしかけたのだが、面白いことに主犯格だったヤツが丸山さんだったため「丸山にも丸でイジれよ」と言ったところ一気に沈下した。
しかし、英語の授業で学んだ英単語の一つ、「スクエア」というあだ名がつけられてしまったまま時は進む。
四角のが言いやすいだろとか名前もあるんだけどとかいった申し立ては全て「こっちのがカッコイイだろ」に撃ち落とされてしまったため、中学から高校3年生までスクエア呼びのままだ。
そうして「四角菜緒」としての立ち位置に立ってしまったこの私鹿久菜緒は、突然目の前を覆い尽くしている四角形に頭を抱えていた。

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