とりあえず、彼女を俺の部屋に待機させて、俺1人で飾り付けをした。
あの日と同じ光景に気分が上がる。
彼女を呼んでリビングに連れてくると、彼女は嬉しそうにはしゃいだ。
はしゃぐ彼女を落ち着かせて俺の前に立たせる。
俺の緊張を読み取ったのか、彼女も真剣な表情になった。
ひざまずいた俺の手に握られているのは、あの日渡そうと思って渡せなかった婚約指輪。
捨てられずにずっとしまっていたのだ。
そっと彼女の顔を見ると、瞳から大粒の涙がこぼれていた。
彼女の左の薬指に指輪をはめると、彼女はとてもうれしそうに笑っていた。
彼女の髪を耳にかけ、自分の唇にあてると、今までの寂しかった気持ちが一気に溢れだした。
2人とも涙を流しながら、互いを求め合う。
そのキスは今までのどのキスよりも激しく、切なかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!