3人で帰るのが当たり前になったある日、真由と別れてから
「あのね、私のマンションのエレベーター付近に椅子があるのわかる?そこで井山と真瀬がいつも喋ってて、最近はエレベーターを使わずに階段で帰ってたの。でも、階段が使えなくなっちゃって、一緒にエレベーターまで来て?」
幸が切羽詰まって頼んで来た。
階段は手すりの故障によりしばらく使えないそうだ。
幸も奏良がいることもあって頼んで来ているんだと思ったので幸について行ってエレベーターまで送って行った。
幸のマンションはエレベーターから右に進んだ所と左に進んだ所の2つの出入り口があった。
左から出た方が家は近いが、右から入った私は通り抜けをしたことになる。
それは嫌だったため右に戻って行った。
そんなこともあって、勇太と奏良に何をしているんだろうという顔をされた。
もちろん無視をして行った。
~4日後~
私は幸を送って4日目になる。
そろそろ来るんじゃないかと思っていた。
その予想は的中した。
「お前何してるの?」
勇太からそう言われた。
わかっていたが、なんて返そうかなんて考えていなかった。
(2人がいるから幸を送っていると言ってはいけない)
「幸と話が盛り上がってるの!」
わかりやすい嘘をついた。
2人は不思議そうな顔をしていたが、なんとか受け入れてくれた。
そのまま部活の話で盛り上がった。
幸は奏良と楽しそうに話しているし、総合的に良かったと思った。
同時に陽貴と同じ部活が良かったと心から思った。
そんなことを考えていると幸と奏良をもう見たくなかった。
「あたし、そろそろ行かないと。」
そんなことは嘘だった。
私は逃げるように右の出口に向かった。
帰り道、幸を1人にして良かったか、それだけが不安で仕方なかった。

次の日の部活の帰り、真由といつも通り別れた後
「悠花、用事あるなら言ってよ!昨日大丈夫だった?今日は?」
「ごめん、大丈夫だよ!今日は何もない。」
優しすぎる幸に対して、奏良との時間を作る協力をしないわけがなかった。
「あっ、良かった。あと私のことを気にして井山とばっかり喋らないで?真瀬に気づかれちゃうよっ///」
(やっぱりそれもばれてたのか。)
今日は自然にしよう、そう決めた。
勇太と奏良が喋っているところに行くと、2人にも大丈夫だったか聞かれた。
大丈夫だと答えたものの、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
(二度とあんなことはしない。)
4人で楽しく話した。
元々、勇太と奏良とも同じ小学校であるため、話したことがあった。
「そろそろ帰ろう!?」
私が時間を見て言った。
3人とも時間を見て、話しすぎたなって顔をして急いで用意を始めた。
勇太は幸と同じマンションだった。
勇太がエレベーターのボタンを押した。
「悠花、バイバイ!また明日。」
「幸、バイバイ。」
私は右側の出口に向かって歩き始めた。
「え、二ノ宮。左から行かないの?」
勇太が私に言った。
「あたし、通り抜けしない主義だからね!」
私は振り返りもしないで、そう返事をして前に進んだ。
マンションを出て、いつも通りの1人の道を歩いた。
角を曲がると、奏良が前にいる。
奏良は左側から出たようで、私よりも前を歩いていた。
それだけなら良かった。
奏良の横には私の見覚えのある人がいた。
(陽貴っ…。)
左側から出た奏良とちょうどあったのだろう。
2人で楽しそうに話している。
(通り抜けしない主義ってなによ。通り抜けさえしてれば私もあそこに入れて一緒に帰れたのに…。)
右から出たことをすごく後悔した。
追いかけて話しかければいい話だ。
でもそんな勇気、私にはなかった。
この前、後ろから話しかけてくれたのにそんな勇気なかった。
そのまま2人の背中を見ながら帰った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。