わたしは、妙な場所に立っていた。
周りが業火に包まれ、大人や子供が叫びながら逃げ惑っている。
ただ…
何も聞こえない。
それに、何も感じない。
こんな業火のなか、普通立ってたら、火傷の一つや二つはするだろう。でも、熱くも、痛くもない。それに、逃げ惑う人達の悲鳴も聞こえない。そして…わたしは、あることに気づく
わたしの真正面に、立っている男の子がいた。その子も、火傷じゃあ一つも負わず、ましてや、汗一滴もかいていない。わたしと同じように。無言でこちらを見る顔は、業火の中とは思えないほど涼しげだった
無言。何も答えようとしない
反応なし。じーっとこっちを見るだけ。これ以上答えようとしないのなら…と、わたしが一歩踏み出した、その時だった
突然、その子が喋り出した。…何だろう。周りの音が聞こえないから、聴覚が異常に働く。
な、何を言っているの?
それだけ言うと、その子は、火の海の中に消えていった
考えもせず、足が動く。なぜだかわからなかった。でも、その子は、知らないていけない子かもしれないから。いや、絶対そうだ。言っていることはよくわかんないけど、わたしに何か、とても大切な事を教えようとしてくれている。そんな気がした。
必死に、火の中へ呼びかけながら、走り続ける。
走って息が切れても、走り続ける。あの子と…ちゃんと話しをしたい。
でも…途中で、地面の出っ張りにつまずいて、よろけてしまった。
転ぶ…!
そう思った直後だった。
ドスンッ!
重たかったまぶたがひらかれ…そこは、火の海ではなく、いつものわたしの部屋だった。真正面には天井がある。どうやらわたしはベッドから落ちたらしい
…ってことは?
なーんだ。ちょっと冒険してみたいなー。
…なんて事を考えてたらほんとに変な夢を見てしまったよ。
さーてと、気を取り直して、二度寝しましょか。
え?どうして二度寝をするのかって?学校はどうしたのかって?そりゃーわたしは不登校だから…というわけではなく。
実は今は春休み中。つまり、いつでも寝てていいってわけ。
よーし、じゃあ二度寝を…
ボフッ!
何か柔らかいものが、突然わたしの顔にぶつかってきた
柔らかいとはいえ、ものすごい勢いできたもんだから、後ろにおもいっきり吹っ飛んでしまう。
上から幼い声が聞こえてきた。…こんな口調でわたしにエラソーに話す子は一人しかいません。
ベッドに立って、腰に手を当て、こっちを上から目線で見下ろし、わたしのきれいな顔に何かを投げてきた失礼な少女は、わたしの(一応)妹の華那。見ての通り、気がわたしより強い女の子です。
…にしても、お姉ちゃん相手にこんな失礼な妹はいるのだろうか。いる人ー、手を挙げてくださーい。
わたしは、下に転がっている枕を指差した。これを、華那が顔に投げつけたのだ。
思わず遮ってしまう。
それを言うと、華那は一瞬ポカンとあっけに取られた。…な、何?正論を言っただけなのに…?
う、ウソッ!
信じられなくて、カレンダーを見る。わたしは日付がカレンダーを見て一瞬でわかるように、毎日チェックをつけているのだ。…うん。4月9日のところに最終チェックが付いているね。
…ってことは
な、何でこんな大切な事忘れてたのよわたしー!バカバカバカッ!
わたしは飛び起きて、光の速さで階段を駆け下りる。2階からリビングの様子は見渡せるので、みんなが何をしているのか一瞬でわかる。
えーっと、ソファでくつろいで、新聞を読んでいるのがうちのお兄ちゃんの政也(まさや)ね。……にしても、ソファで新聞を読むって…まるでどっかのオヤジみたいだ。高校生がフツーこんなことするかな?
で、キッチンでフライパンなどを丁寧に洗っているのは、ファッションデザイナーでうちの主婦担当のお姉ちゃんこと柚(ゆず)
もう、机の上には美味しそうな朝ごはんが並んでる。
席について、
いただきまーす!と、言って、食パンにジャムをかけて食べる。
んんっ!おいしい!やっぱお姉ちゃんの料理は絶品だなぁ
ああっ!そうだった!
わたしは急いでパンを口に突っ込み、それ以外のご飯も超特急で食べ、猛スピードで歯磨きをして、着替えて、髪の毛整えて…全部終わる頃には7時30分頃…ふぅ、ギリギリだぁ。
ランドセルを背負ったわたしは、靴を履き、玄関の鍵を開けて、外に出ようとして…おっと、大事な事を忘れてたよ。
お兄ちゃんは高校生だから、もうとっくに家を出ていて、わたしは、お姉ちゃんと華那にあいさつをすると…
さわやかな青空の下に飛び出したのでした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。