第9話

転校生に導かれて
130
2017/12/17 13:36
花凛先輩
花凛先輩
それじゃあ、今日の練習はこれで終わり。また明日ね。さようなら
部員全員
さようなら
わたし達は声を揃えて、お別れの挨拶をする。
恋
千江、帰ろーっ!
千江
千江
あ、うん、恋ちゃん
わたしは部室の隅に固めて置いているランドセルを手にかけながら、水筒でお茶を飲んでいる千江に声をかけた。
花凛先輩
花凛先輩
…ねぇ、恋
後ろから声がかかったと思うと、そこには花凛先輩がいた。
恋
あ…、花凛先輩
なんだろ………お説教されるのかな…?
花凛先輩
花凛先輩
あのね、あと数週間したら、一年生を迎える会があるでしょ?
恋
はい…
花凛先輩
花凛先輩
それで、あんたに脇役だけど出て欲しいの
恋
う、うそっ!まじまじまじで!?
なんで脇役ごときで大げさな………なんて思っているあなた!いえいえ違います!
この一年生を迎える会の演劇部の公演は十分程度の短い劇。わたしら四年生にとっては初の舞台なんだけど、だいたい、舞台に出るのは五年や六年ばかりで、四年は裏方に回される。
それが、脇役だけど出られるってことは、超ラッキーじゃん!わたしの女優の幕が上がるね!
花凛先輩
花凛先輩
実は、元六年が春にごっそり抜けて人手不足なんだ。だから、一年の中でも人一倍頑張っている恋に頼みたいの。
…あぁ、要は人手不足で、わたしがピンチヒッターって事ですね…
花凛先輩
花凛先輩
あ、いや…そういう訳じゃないけど…まぁ、とにかくやってくれる?
恋
はい、いいですよ
わたしがそう返事すると、先輩はホッとしたように胸をなでおろした。
花凛先輩
花凛先輩
ありがとう!じゃあ下校時刻も近いし、早く帰りな。
恋
はい!さようなら
わたしは、部室のランドセルを固めてある場所にポカンとしてこっちを見ている千江に駆け寄った。
千江
千江
恋ちゃん、どうしたの?
恋
あ、うん、ちょっと話があってね…
千江
千江
そうなんだ…
あ、恋ちゃん、算数でわからない問題があるんだけど、教えてもらってもいいかな?
恋
んー?どれどれ?
千江
千江
えーっとね…………あれ?
ランドセルを開けて中を見た千江の顔に困惑の表情が浮かんだ。
恋
千江、どしたの?
千江
千江
うーん…算数の教科書がないの………教室に忘れたのかな…
恋
ほんと?じゃあ取りに………
と言いかけてわたしはハッとなった。千江も顔を強ばらせる。
ついこの間、わたし達はその前でキョーフの体験をしたばかりだ。
千江
千江
…教室、行きたくない…
恋
う、うん………でもさ、千江、わたしに聞きたい事、あるんでしょ?なら今取りに行った方がいいじゃんか
千江
千江
で、でも……それは月曜日にもできる事だし…
恋
でも、忘れそうでしょ?なら行こうよ!わたしもいるしさ!
千江
千江
…うん、ありがとう。恋ちゃん
そう、はにかんだ千江の顔は………偽りではなく、ほんとの笑顔だったのでした。






千江
千江
れ、恋ちゃぁん………先に行ってよぉ…
恋
うー…でもぉ…
やっぱ怖いぃ………さっきカッコつけるんじゃなかった…
恋
あ、あと少しだから!ね、千江!
千江
千江
う、うん…頑張る…
ビクビクオドオドしながらも進んで行き、とうとうその場所…四年一組の前に立つ。
あぁ……なんか一組の看板すら神々しく、救いに感じる…
恋
…ねぇ
千江
千江
何?
恋
ここまできて、教室の鍵開いてなかった…とか、ないよね?
千江
千江
う………、それは考えたくないな…
顔を強ばらせる千江。…そうだよね、物事は常に明るい方に考えなきゃ!
千江
千江
じゃあ、行ってくる……
恋
うん、頑張れ…
ガタガタ、ギシギシ…
相変わらず派手な音を立てながら、ドアが開く。
よかった…開いてた!
千江は教室に足を踏み入れ、自分の机に向かっていく。
その様子を静かに見守るわたし。
千江
千江
会った…会ったよ!
机の中を探っていた千江は算数の教科書を見つけたらしく、歓声を上げる。
恋
よかったね!千江!
千江
千江
うん!よか………
多分、よかったって言いかけたんだろうけど、途中で言葉を途切れさす千江。
恋
ん?どうしたの千江?
千江
千江
…と、虎谷くん?
恋
…へ?
???
…探した
恋
っひゃあっ!
後ろからいきなり声がかかったから、わたしは1メートル(実際は10センチほどです)ほどとびあがってしまった。
大河
大河
…なんでそんなに驚いてんの?
恋
…あ、大河くん…
そこにいたのはヘンタイヤロー………じゃなくて、虎谷大河くんだった。
千江
千江
…と、虎谷くん、どうしたの…?
いつのまにか後ろに来ていた千江が少しオドオドしながら聞く。
大河
大河
…二人を、探していた…
恋&千江
…へ?
…ハモったね、今。
恋
な、なんで……
大河
大河
ちょっとこっち来て
恋
…は?
千江
千江
…へ?
呆気にとられている間に…、大河くんはわたし達の手を掴み………………………………っておいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!
何女子の手無言でつかんでるんだよっっ!!
心の中はパニクってんのに、なぜか行動では示せないわたし。
そして、手を掴んで連れてきたのは…
恋
………
千江
千江
…………
…逃げたい。立たされて真っ先にそう思った。だってそこは、昨日声が聞こえた窓の前だったんだから。
恋
千江
千江
わたし達は無言で視線を合わせる。
嫌な予感しかしないんだけど………大河くんは、相変わらず涼しい表情で、こちらを見ている。………かと思うと!
………サッ
いきなり、大河くんは手を挙げた。
恋
………え?た、大河く…?
その謎の行動に、わたしが戸惑ったのは…ほんの一瞬だった。それから…さらに妙なことが起こったから。
ガラガラガラガラガラ……
恋
…え?
千江
千江
…え?
わたしと千江の視線は……真っ直ぐにその音がした方に注がれた。
…う、嘘でしょ………そ、そんな…なんで………?
なんで、窓が勝手に………開くの?
しかも…そこからっ!
…………あ、あぁ……な、なんで………もう、失神してしまいそうなぐらいに、足はガクガク震え、顔は真っ青、冷や汗がとめどなく溢れてくる。
だって、そこから………
手が………でてきてた。
千江
千江
ひ、ひいっ……
真っ青を通り越して紫の顔色の千江は小さく悲鳴をあげた。
昨日は自然と足が動いたのに、今日は全く動かない。
そして、その手は…






わたしの手首を、ガシッと掴んだ。
恋
…いっ……
いやぁって悲鳴をあげたいのに、声が出ない。その手は、わたしの手首を掴んでまま、どんどん窓に引きずっていく………
千江
千江
き……きゃあああぁぁぁっ!!
後ろで千江の悲鳴が聞こえた。わたしも、あげたいけどあげられない…
もう、わたしの上半身は宙に浮いてる。
どんどんわたしは、窓に引きずられ、引きずられ…とうとう、…体のほとんどが、窓の方に行っていた。
恋
………う…
下を見るのが怖くて、上ばかりを向いている。
怖い怖い怖い………助け………
ドスンっ!
恋
………ったぁ!
………は?………へ?痛い?痛いのは、落ちて当たり前だけど、あんな高いところから落ちて、ちょっとしか痛みを感じないのは圧倒的におかしい。しかも、落ちるという感覚がなかったような………?
???
???
…大丈夫?
恋
…え?
わたしの真上から………凛とした声が聞こえた。
見上げると、透き通るぐらいに白い肌。ものすごく整った顔立ちに、緑色の髪の毛をツインテールにした女の子がこちらを覗き込んでいた。
恋
…だれ?
まだ心臓はバックバク鳴ってたけど、なんとか抑えて、少女に尋ねる。
そして…わたしはここがどういう場所なのかを探った。
殺風景な、ドーム状の部屋だった。
???
???
あぁ、私は………
と、名乗ろうとした少女は、きゅうに言葉を止めてこちらを見た。
???
???
…の、前にあなたは?
恋
わたしは……相川恋よ
この見知らぬ人物に名前を言っていいのか………と思いつつ、わたしは名乗った。
すると…
???
???
………!!
少女が目を大きく見開いた。
な、……何?
わたしが呆気にとられていると…
???
???
あ、………ああぁぁぁぁぁぁっ!
恋
わっ!
な、何?だから何なのよ!
いきなり少女は悲鳴をあげた。
???
???
う、嘘…れ、ん……あ、…あぁ…
口をパクパク、冷や汗ダラダラ、呼吸はハァハァ……その……わたし、何か変なことに言いました?
…と、わたしと女の子が変なやり取りをしていると…
千江
千江
れ、恋ちゃぁんッ!!
大きな悲鳴とともに、窓から千江が飛び出してきた。
ドシン!!
千江もわたしと動揺、大きな音を立てて落ちる。
千江
千江
…てて…
恋
千江!
頭を抑えて呻きながら立つ千江に駆け寄る。
千江
千江
…あ、れ、恋ちゃん!
わたしの顔を見た千江は一瞬ホッとしたような顔を見せたけど……その顔がクシャっと歪み、瞳から一粒、涙がこぼれ落ちた。
千江
千江
よ、よがったぁ……恋ぢゃんが無事でぇ………
涙を拭きながら、千江はそういう。
千江………そこまで、わたしを心配してくれたんだね。
さらに…
大河
大河
おーい、草菜〜、悲鳴こっちまで聞こえてるぜ
窓から、大河くんが乗り出してきた。
…あれ?何か大河くん、調子違くない?口調も、いつものおっとりした感じじゃない…
しかも、元からここがあったことを知っているかのように、平然と、地面に着地している。
大河
大河
…な?おれの言った通りだったろ?
???
???
そうね…本当にあの子が姫様だったわね…
大河
大河
やっぱおれの感はすげーな!
???
???
そうねっ!ふふ!
顔を見合わせて、笑う二人。顔立ちの整った二人が笑っていると、超お似合いのカップルに見え……
って!どうでもいいからこんなこと!
この女の子はだれ?
ここ、どこ?
恋
…ち、ちょっと二人ともーーっ!
ずっと笑い続けていそうな二人を、わたしは慌てて止めたのでした。

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