しばらくぼうっと黒い海を眺めていると、後ろの方から車のクラクションの音が聞こえ、思わず振り返った。
海沿いの細い道には、街灯に照らされた黒いセダンが止まっている。
「ねぇキミ。大丈夫?」
車から降りてきたのは二十代くらいの男だ。
彼の問いかけに私は「はい」とだけ答え、また海の方を向いた。
「寒いな…」
随分大きな独り言だな、と思いながら 男が砂を踏み分ける音を聞いていた。
「…寒くないの?」
いつの間にか隣に来ていた彼は、そう言って顔を覗き込んでくる。
男の服に染み付いた煙草の匂いが風に攫われ、私の胸をギュッと締め付けた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。