「きりーつ、気を付け、礼」
いつもの挨拶を終えると、先生は1度咳き込んでから話し始める。
「えー、じゃあ前回の復習からな」ニコ
あ、
笑った。
口角をニカっと上げて、白い歯を輝かせながら笑う。
その笑顔が、出会った時から大好きだ。
「前回やったのはここなんだけど、どういうことか覚えてる?」
浅野先生はサッカー部の先生で、授業中にもいつもサッカー部の生徒に質問を投げかける。
サッカー部であり隣の席の青葉は、「当てられるの嫌だ」って言ってたけど、私からしたらうらやましい。
「青葉、言ってみろ?」
「え、えーっと…」
いつもの光景だ。
私は黙って、まだ何も書かれていない黒板をじっと見つめる。
コソッ「あなた、前回どこやったっけ?」
私にこっそりと聞いてくる。
まあ、クラス中の視線は青葉に向けられてるわけで。こっそりと聞いてもバレバレなんだけど。
「ここだよ、ここ」
私はノートを開いて、前回習った所を指差す。
青葉は「さんきゅ」と口パクで合図し、先生に向かって「○○です」と答えた。
「正解。だけど青葉、あなたに教えてもらう前に自分で考えなよー(笑)」
さらっと自分の名前を呼ばれ、どきっとする。
その声で名前呼ぶなんて、反則です。
それからあっという間に時間が過ぎていき、授業終了のチャイムがなった。
「起立、気をつけー、礼」
今日も私は、進展がないままだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!