第21話

story *ジヨンside*
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2018/02/08 09:57
加奈子と付き合うことになってもう半年が過ぎようとしていたその時…事件は起こった。


いつものように加奈子と手を繋いで、
学校に登校する。
そんな俺達を恨めしそうに見つめる生徒たち。
俺達はどうやら学校公認のカップルらしく、
"お似合い"らしい。
ハッキリ言って、
俺にはどうでもいい話だけど。




そんなことより、最近気になることが…。
あの日、倒れたあの日から…
菜奈が学校にきていない。
何かあったのだろうか。
菜奈の友達に聞くと、
ただの風邪を少しこじらせただけだと言う。
けどそんなただの風邪でここまで学校を休むか?

加奈子と手を繋ぎながらも
菜奈のことを考えてしまう今の自分は最低だ。と、自分をせめていると…
バタバタと背後から誰かが走ってくる足音が聞こえてきて、振り返った。
すると…


勢いよく肩を掴まれた。


菜奈の友達の…たしか、神田佳代ちゃん。
神田 佳代
大変!!!!!!!!
ジヨン
へっ?
ゼェハァ、と余程全力疾走してきたのか
肩を上下に揺らし、
荒い息づかいをする佳代ちゃん。
何が大変なの?

聞きたかったけど肝心な佳代ちゃんは辛そうに地べたに座っているし…


なんなんだ、と加奈子の方を見ると
加奈子も不思議そうな目で俺を見た。
と、その時
プルルルルルルル…。



ポケットに入れてあった携帯が、
静かな廊下に鳴り響いた。


こんな時間に誰だ?
携帯を開き、画面に表示される名前を見た




《 着信 SOL 》



友達、SOL からの着信だ。
電話するのがあまり好きではないらしく、
普段滅多に連絡をよこさないSOL。
これほど珍しいことはない、と不思議に思いながらも応答のボタンを押して、
携帯を耳に当てた。

ジヨン
もしも…
SOL
ッ、ジヨン!大変なんだっ!
早く、早く来てくれ!!
俺の言葉を遮るようにして
被さってきたSOLの焦ったような悲鳴のような声にギョッとした。
これはまた、滅多にないことだ。
SOLがこんなにも焦った声を小さい頃から一緒にいたけど、聞いたことがない。
今日はあれだな。


"珍しいことがおこる日"!!



なーんてバカな考えをしていた俺に、
放たれた言葉はあまりにも残酷で…
受け入れられない言葉だった。
SOL
ジヨン、今すぐ市民病院に来てくれ。
菜奈が…手術だって
ジヨン
えっ?
ツーツー、
と聞きなれた機械音が虚しく鳴り響く。

頭が、真っ白になった。


何も、考えられないくらい、
何かで頭をガンっと殴られたような感覚…。



嘘だろ…?
何で?どうして菜奈が市民病院にいるの?
なんで、市民病院なんかで、
手術なんてしてるの?
そうだ…
この前からずっと、
おかしいと思ってたじゃないか。

別れてから、菜奈の様子がおかしかった。
もしかしたら、あの頃から菜奈はずっと我慢してたんじゃないか…?
どうして俺は、
気づかないフリをしてしまったんだろう…。
思わず、握りしめた拳に力が入る。
神田 佳代
菜奈にね口止めされてたんだけど…
嗚咽混じりに話す佳代ちゃんに耳を傾ける。
佳代ちゃんの話で全てを理解した俺は繋いでいた加奈子の手を振り払い、
病院へと、菜奈の元へと走り出した。


何か加奈子が後ろから叫んでくるけどそんなのに今は構ってる暇はない。



走っているとなぜだか頬が冷たく感じて
手を頬に当てた。




俺…泣いてる??


走りながらもあふれでてくる涙。
こんなに泣いたのは小学生以来だ。

それでも、走る。
ただ、菜奈のもとへと無我夢中で。



さっきの佳代ちゃんの言葉が頭の中でリピートされる。




『菜奈は、ジヨンが好きだから別れたの!』



菜奈は、自分が白血病という病だから
こんな病を持つ女よりももっと良い人と付き合って、幸せになってほしいと思って俺と別れたらしい。



バカ…。

菜奈のせいで、
どれだけ苦しい思いしたと思ってんの?

なんで、勝手に決めつけるんだよ。

俺にとって、
菜奈といられること以上に、
幸せなことなんてないのに…。




『菜奈は、今でもジヨンのことが好きなんだよ』


うん。俺も好きだよ。
ずっと、この気持ちが揺らいだことなんてない。
『白血病ってね、治らないんだって。
死んじゃうって…』
"死ぬ"



菜奈が死ぬなんて、考えもしなかった。

だって、あんなに元気に笑ってたのに。
あんなに良い子なのに…
死ぬ理由なんて、見つからないから。



神様ってほんとにいるのかな?
いたとしたら、神様は意地悪だ。

どうして菜奈なんですか?
どうして菜奈が死ななきゃいけないんですか?
まだまだ子供で、これから楽しいことだってたくさんあるはずなのに…
どうして…?
喉が熱くなるのを感じながら…
目の前に見えてきた大きな建物に息をすませた。

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