ー翌日の朝ー
今日は土曜日で学校も休み。
家でゴロゴロしてるかーと思っていると
♪ピンポーン♪
家のチャイムが鳴った。
誰も出る気配なし。
そりゃそうか、家族皆、出掛けてるんだもんな。
でも出るの面倒だし…居留守つかってやろ。
♪ピロロロロン♪
今度は携帯がなる……誰だよ!!
人のせっかくの休日を潰そうとしてるやつは!!
イライラしてた俺は携帯の画面も見ずに電話に出ていた。
今家の前にいるってことはもしかして
さっきインターホンを押したのは…菜奈?
だとしたら申し訳ないことをしてしまった。
菜奈から来ることなんてなかなかないし……
何だか嬉しくなった俺は電話をしながら家を飛び出た。
♪ガチャン♪
ドアを開けると、寒そうに耳まで真っ赤にした菜奈が立っていた。
腕を掴み、家の中に入れようとするが…
なぜか菜奈は下を向いたまま、動こうとはしない。
呼んでも声だけで返事をして、
こっちを見ようとはしてくれない。
俺は肩を思いっきり掴み、こっちを向かせた。
向かせた瞬間、俺は思わず言葉がつまった。
目の前にいるのは、
泣いたのだろうか、涙目で目が赤く腫れている菜奈。
菜奈はまだ下を向き、何も言おうとしない。
そんな菜奈に徐々に怒りが込み上げてくるのをおさえる。
俺が優しくそう聞くと、
菜奈は小さな肩を震わせ、目から大粒の涙が溢れ出した。
菜奈の思わぬ言葉に頭が真っ白になる。
今、菜奈は"別れてください"って言ったのか?
俺に……?
俺何かした?
嫌なことでもあったのか?
今までだって色々俺のせいで陰口言われてたりしてたけど、そんなのほかってたし、どうでもいい、みたいなこと言ってただろ?
なのに、どうして?
俺は喉が熱くなるのを感じながら聞いた。
菜奈はただ泣いていて…
菜奈の嗚咽しか聞こえてこない。
俺はそのとき、今までいた菜奈との時間の中で1番長い時間のような気がした。
菜奈はそれだけ言うと、走り去っていってしまった。
今までの俺なら何の迷いもなく、菜奈を追いかけてた。でも、今の俺にはそれができなかった。
俺の目からも涙が流れ出てくるのを感じる。
涙で視界がぼやけてくる。
涙を、止めることができない。
菜奈、別れてほしい、ってなに?
どうして?何かあったのか??
何かあったとしたら、俺はそれを何も知らずに呑気にここまでやってきていたのか…
もし、何かあったのなら…
何も気にしなくていいから。
菜奈は自分のことより他人のことを考える奴。
俺のことを気にして別れを告げただけかもしれない。
きっと、そうに違いない…。
そう、自分に言い聞かせた……
月曜日、ちゃんと理由を聞こう…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。