だんだん暑くなってきた。
梅雨もあけて、毎日蝉も鳴いている。
夏休みも目の前だ。
私は帰る支度を始めた。
最近はいつもジヨンと帰ってる。
この前、私が
"ソフトができない理由は通り魔に襲われたから"
と言ったから。
本当にジヨンは単純でバカ。
こんな嘘に騙されちゃって…。
菜奈も菜奈でしょ。
私がジヨンと付き合ってるっていう噂は絶対菜奈にも入ってきている。
なのに、何も言ってこないなんて…二人してバカ。
バカすぎて呆れる。
ま、お陰で大好きなジヨンと二人きりの時間がたくさんできてるんだけどね♪♪
それは、感謝しなきゃ!
そんなことを考えていると、
帰る支度が済んだのか、
教室から1人出てきたジヨン。
そして、
隣のクラスから友達らしき女の子と一緒に出てきた菜奈に目をやる。
ナイスタイミング!!
ちょっと苛めてやろうかな。
大声で名前を呼んで思いっきり手をふる。
するといつものように笑って
片手を上げるジヨン。
ジヨンの隣はもう今は、私なんだよ。と、
菜奈に言うようにしてジヨンの腕を掴む。
そんな私を見て菜奈は顔をしかめた。
さぁ、どうする菜奈!
そう、菜奈の行動を楽しみに待っていると
バタッ!!
目の前から菜奈が消えたかと思えば、
菜奈は地べたに横たっていた。
何…?いきなり。
演技?なんなの?
私もジヨンもその場で立ち尽くしていた。
遠くから菜奈の友達だろう女が走ってきて、
菜奈に近寄り、体を揺さぶる。
それでも全く動かない菜奈。
女が誰か助けを呼ぼうとしたその時
TOPまでもが異変に気付き、走ってきた。
TOPと女がゴチャゴチャ言い合って菜奈の心配をする姿を見て笑えてきた。
だってこんな子を、
心配するなんて…どうかしてると思う。
こんな自分じゃ何もできない子なのに。
心配されて、皆に可愛がられて…
私は昔からずっと…
菜奈のことが大嫌い。
イライラするの。
自分じゃなにもできなくて、
友達に甘えて、好かれてるあんた見ると。
そうやって倒れてんのも、
ジヨンに心配してほしいからでしょ?
ジヨンに気にしてほしいからでしょ?
ぼーっと倒れている菜奈眺めていると
私が掴んでいたはずのジヨンの腕がスルリと抜けた。
えっ??ジヨン?
ジヨンは焦るように菜奈の側に駆け寄っていった。
何、皆して。
騙されてんだよ、皆。
なんで気づかないんかな?
まじでバカなんじゃないの?
ぐったりとした菜奈をジヨンは抱えて、
救急車を呼ぼうとするジヨンたちに大声を上げた
普段のジヨンからは考えられない程の罵声と威圧感に驚いて、私は思わずその場をどいた。
するとジヨンは菜奈をお姫様抱っこして
保健室目指して走り出した。
そんなジヨンのうしろ姿を
見つめることしかできなかった…。
ーーーーー菜奈が救急車で運ばれてった後ーーーー
保健室でジヨンと二人きりになった。
救急車にはどうやらあの女とTOPが乗っていったらしい。
"今言うのもなんだけど"と私は俯きながらでも、
覚悟を決めてジヨンの目を見た。
なんで…!?
なんで私じゃないの!?
私の方が運動もできて、
学校では人気がある方。
なのに何で菜奈なの!?
あんな何もない女なんか!?
そう言って少し悲しそうな表情をするジヨンに少し胸が痛む。
…沈黙が続いた。
そして、私がその沈黙を破った。
私がそう、少しキツくいって見せると、
ジヨンは顔を歪めた。
今にも.泣き出してしまいそうな顔…。
そう、泣きそうな顔で言えば、ジヨンは…
やっぱり優しい返事を返してくれた。
夕日が少しずつ落ちていく中、
ジヨンと二人、手を繋ぎながら歩いた。
やっとジヨンと付き合えた。
やっと、私の想いが届いた。
今まで菜奈は幸せだったでしょ?
ジヨンと一緒に長い時間いられて。
だから今度は私に譲ってよね。
もう、誰にも邪魔されませんように…。
そう、強く願いながら帰った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。