雰囲気から察するに"そういうこと"だろう
「いいも何も、どう見ても初対面だ。いくら彼女でも全く知らないやつにホイホイとOKしたりはしないよ……多分」
ばつが悪く視線を逸らす俺に向けられる、哀れむ顔が腹立たしい
いつだってライバルは突然現れて、何年経っても振り向かなかった彼女の心を簡単に奪っていく
敗けは初めから決まってる
「いっそのこと元カレ達にでもレクチャーしてもらえば?姫を振り向かせる方法」
「確実に振り向いてくれるならとっくにやってる」
冗談めかしてそう言えば呆れたように乾いた笑いが返ってくる
「まじかよお前……プライドねーの?」
榊原の言葉を無視して買ってきてもらった購買のパンを頬張る
再び窓に目を向けると話終わった彼女が踵を返し、
視線がぶつかった
「こっちに気づいたっぽいな」
俺の言葉を榊原が代弁する
彼女は俺を見るとベーっと舌を出す仕草をして、そのあとすぐに悪戯っぽい笑顔で笑った
「なんつっーかさ、どこがいいの?」
「知らなくていい」
榊原の問いかけに、きっとニヤけているであろう口元を隠しながら答える
あぁ、
敗けは初めから決まってる
それでも
プライドなんてそんなもん
どうでもよくなるくらいには────……
彼女が好きだ
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!