プリ小説

第5話

月の夢
「貴方は、1人でここに住んでるの?」

突然聞かれたことに驚いたのか、彼は少しの間を空けて答えた。

「うん、1人だよ」

そう言って、紅茶を一口飲む彼。

「…寂しく、ないの?」

私の問いに、また驚く彼。

「寂しい?…誰が?」

「貴方が」

そう答えると、黙り込んでしまった。
しばらくしたら、にこりと微笑んで。

「寂しくないよ」

そう言った。

「どうして…?1人なんでしょ?」

「だけど、寂しいと感じたことはない」

淡々と答え続ける彼に、私が悲しくなってきた。

「おかしいよ、そんなの…」

ぽつりと呟いた私の言葉に、彼の顔色が変わる。

「あなたは、なんでそんなこと聞くの?」

少しだけ苛立ったような口調に、私は答えることができなかった。

「………」

いつまでも答えない私を見て、彼も黙ってしまう。

沈黙が嫌になり、私はソファから立ち上がり、窓に近づいた。よく見ると、空に浮かんだ月は満月だった。

「…早く、覚めてよ」

夢なら、早く覚めてほしい。
こんな世界にこんな人と2人きりなんて、ふざけた夢だ。
骨折するわ、入院するわ、変な夢を見るわ…最悪だ。

「…覚めるって、何が?」

ソファに座ったままの彼が、私に聞いてきた。

「別に…こっちの話」

「ふぅん…」

興味があるのかないのかわからない返事を返された。
しばらくの間、私は窓の外を眺めていた。
少ししてから、彼もソファから立ち上がり、本棚から一冊の本を抜き取った。

「………」

ちらっと横目で見ると、本の表紙が見えた。
「眠り姫」と書いてある。

「…そういう本読むんだ」

「え?…あぁ、うん」

…さっきのこと、まだ怒ってるの?
自分もそっけない返事をしていたけれど、される側になると嫌なものだ。

「……ごめん」

「どうして?」

この男は…。

「さっきのこと。わかったような口聞いて、ごめん」

頭を下げながら謝ると、彼はぽかんとしていた。

少しの間の後、優しく微笑んだ彼は。

「……月が、綺麗ですね」

ぽつりと、呟いた。

それを聞いた私は、思わず窓の外を見た。

「…そう、だね」

夜空に浮かぶ満月は、見惚れるくらい綺麗だった。

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テロル
テロル
最近朝布団が自分を離してくれません。 そう言ったら友達に毎朝モーニングコールをされるようになりました。 彼氏の浮気を許さない彼女でしょうか…?
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