第5話

月の夢
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2017/11/11 15:51
「貴方は、1人でここに住んでるの?」

突然聞かれたことに驚いたのか、彼は少しの間を空けて答えた。

「うん、1人だよ」

そう言って、紅茶を一口飲む彼。

「…寂しく、ないの?」

私の問いに、また驚く彼。

「寂しい?…誰が?」

「貴方が」

そう答えると、黙り込んでしまった。
しばらくしたら、にこりと微笑んで。

「寂しくないよ」

そう言った。

「どうして…?1人なんでしょ?」

「だけど、寂しいと感じたことはない」

淡々と答え続ける彼に、私が悲しくなってきた。

「おかしいよ、そんなの…」

ぽつりと呟いた私の言葉に、彼の顔色が変わる。

「あなたは、なんでそんなこと聞くの?」

少しだけ苛立ったような口調に、私は答えることができなかった。

「………」

いつまでも答えない私を見て、彼も黙ってしまう。

沈黙が嫌になり、私はソファから立ち上がり、窓に近づいた。よく見ると、空に浮かんだ月は満月だった。

「…早く、覚めてよ」

夢なら、早く覚めてほしい。
こんな世界にこんな人と2人きりなんて、ふざけた夢だ。
骨折するわ、入院するわ、変な夢を見るわ…最悪だ。

「…覚めるって、何が?」

ソファに座ったままの彼が、私に聞いてきた。

「別に…こっちの話」

「ふぅん…」

興味があるのかないのかわからない返事を返された。
しばらくの間、私は窓の外を眺めていた。
少ししてから、彼もソファから立ち上がり、本棚から一冊の本を抜き取った。

「………」

ちらっと横目で見ると、本の表紙が見えた。
「眠り姫」と書いてある。

「…そういう本読むんだ」

「え?…あぁ、うん」

…さっきのこと、まだ怒ってるの?
自分もそっけない返事をしていたけれど、される側になると嫌なものだ。

「……ごめん」

「どうして?」

この男は…。

「さっきのこと。わかったような口聞いて、ごめん」

頭を下げながら謝ると、彼はぽかんとしていた。

少しの間の後、優しく微笑んだ彼は。

「……月が、綺麗ですね」

ぽつりと、呟いた。

それを聞いた私は、思わず窓の外を見た。

「…そう、だね」

夜空に浮かぶ満月は、見惚れるくらい綺麗だった。

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