第6話

猫の夢
43
2017/11/12 10:07
それから、私達は他愛もない話をしていた。
彼の名前はマシロというらしい。
この屋敷にはグランドピアノがあるが、実際に弾いたことは一度もないとか。

「楽譜もあるんだよ」

「それ、勿体無くない?」

「だったら、あなたが弾いてみてよ」

マシロは、少しムスッとしたような顔をした。

「無理だよ」

思わず笑ってしまう。

–––––……チリン…

どこかから、鈴の音がした。

「…何?」

「どうしたの?」

マシロが不思議そうに聞いてきた。
私が鈴の音がしたと言うと、今度は驚いたような顔をした。

「猫でも飼ってるの?」

「いや…この屋敷には、他に誰も…」

なんだか、怖くなってきた。
私は立ち上がり、ドアノブに手をかけた。

「あなた?」

マシロの声は無視して、ドアを開ける。

–––––…チリンッ

「…いた」

目の前を、真っ黒な猫が通り過ぎた。

「待って!」

思わず、私もその猫の後を追いかけた。

「あなた!?」

その時の私は、マシロの声など聞こえていなかった。
ただ、この猫を追いかけなきゃいけない…そんな気がしていた。

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