どれぐらい、マシロのことを抱きしめていただろう。
温かい体温と、微かに震える背中に回された腕に、私は何とも言えない気持ちになった。
「…マシロ」
「ん?」
私の腕の中で、マシロが返事をする。
「私の目が覚めたら…マシロは、消えちゃうのかな」
「………」
夢の中で、誰かにこんなことを聞いたのは初めてだった。
ただ、マシロには、どうしても消えてほしくなかった。
「…俺は消えないよ」
そう言うと、マシロは私の頭を優しく撫でた。
「……うん…うんっ…」
涙が溢れた。
目から溢れた涙が頬を伝い、マシロの髪を濡らしていく。
「…あなた?泣いてるの?」
「………」
心配そうに問いかけてくるマシロの優しさに、私は胸が締め付けられた。
その日に見た夢は、二度と見れない。
たとえ、どんなに楽しかったとしても。
たとえ…夢の中に永遠にいたいと願ったとしても。
だとしたら、私は「今」、マシロにこの気持ちを伝えなくてはならない。
「マシロ…私ね。マシロのことが…」
–––––好き。
次の言葉を言った時には、私の目の前にマシロはいなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!