第4話

お兄ちゃん4
1,044
2017/11/14 14:25
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お兄ちゃんが、行ってしまった。


私を置いて、行ってしまった。


今までこんなことはなかった。


どんなにケンカしても、私を一人にすることなんてなかったのに。
キム・テヒョン
キム・テヒョン
ごめん、あなた
悲しそうな声。


これはお兄ちゃんの声じゃない。


そっか。今は一人じゃないんだ。


なんて、ぼんやりと考える。
あなた

…テヒョン

私はなんて事をしてしまったんだろう。


テヒョンにもこんな顔をさせて。
キム・テヒョン
キム・テヒョン
俺のせいだ
テヒョンが小さく、ごめん、と呟いた。
あなた

ううん。そんなことないよ

テヒョンはなにも悪くない。


それどころか、私のせいで悲しい思いをさせてしまった。
あなた

私の方こそ、ごめんね

ごめんね、とそう口にするたび、テヒョンへの申し訳なさが込み上がってくる。
キム・テヒョン
キム・テヒョン
どうしてあなたが謝るの?
ああ、また。


また、そんな〝らしくない〟表情((カオ))をさせてしまった。
あなた

だって、テヒョンを巻き込んじゃったから

言いながら、必死に〝なにか〟をこらえる。
キム・テヒョン
キム・テヒョン
…泣かないで、あなた
テヒョンが、そっと私の目元を拭う。


まるで壊れものに触れるかのような、そんな優しい手つきだった。
キム・テヒョン
キム・テヒョン
俺はあなたの笑顔が好きだよ
だから笑って、と。


そう言って、テヒョンは微笑んだ。
あなた

っ…

ずるい。そんな表情をされたら、私はもうなにも言えなくなる。


テヒョンのその笑顔は反則ものだ。


きっとわかっててやってる。


いや、嘘。わかってなんかいないんだ。


テヒョンは、自分の魅力にいつになっても気づかないから。
キム・テヒョン
キム・テヒョン
よし!じゃあ、学校行こっか
テヒョンが少し大きな声で言う。


きっと、私を元気づけるためなんだろう。
あなた

うん!

テヒョンのそういう優しさが、とても温かかった。


心の内側が、ぽかぽかとするのを感じた。


テヒョンが、女の子だけじゃなくて男の子にも人気なのは、飾らずに相手を気遣うことができるからなんだろう。
キム・テヒョン
キム・テヒョン
あ、手つなぐ?
少し前を歩いていたテヒョンが、勢いよくバッと振り返る。
あなた

っえ!なに言ってんの、繋ぐわけないじゃん!

あまりにも突然だったから私は内心驚きつつ、あくまでも冷静に返す。


その言葉に、少しドキッとしたことはテヒョンには内緒にして。
キム・テヒョン
キム・テヒョン
ふう〜ん?
いやいや、なんなんですかその顔は。


ほらほらほら〜、なんて言いながら右手をヒラヒラと差し出してくる。


全く、さっきまでのしおらしさはどこに行っちゃったんだろう。
あなた

ホントに!いいから、もう!

テヒョンがイタズラっぽく笑う。


その笑顔を見てると、私まで楽しくなってきて、悩み事も嘘みたいに思えてくる。


それくらいどうでもよくなってしまう。


私はテヒョンといると、気づいたら笑ってることがほとんどだ。
キム・テヒョン
キム・テヒョン
わかった、わかったから!
そんなに言わなくてもいいじゃん、なんて言いながらテヒョンが泣きマネをする。


私はそれにまた笑って。


テヒョンが、よかった、って呟いたような気がする。
キム・テヒョン
キム・テヒョン
(笑顔になってくれてよかった)

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