(もうどうにでもなれ)
私は半ばやけくそになって、ジョングクさんにバッと手を差し出した。
たぶん、今の私の表情はなかなかに酷いものだと思う。
怒ってるように見えるかな。
ジョングクさんにはどう映るだろうか。
テヒョンはいまだに笑ってる。
目尻に涙まで浮かべて。
恥ずかしさで、泣きたいのはこっちだってんだい。
私はテヒョンをじろりと睨みつける。
私の差し出した手は、まだそのまま。
声のするほうを見ると、ジョングクさんが笑っていた。
整った顔をくしゃりとさせて。
意外だった。
あんまりそんな風に笑ったりしない人かと思ってたから。
テヒョンが意外そうに呟いた。
そう思ったのは私だけじゃなかったみたい。
テヒョンまでもそう思うって、ジョングクさんどれだけ笑わない人なの。
そんな私たちの心の声が聞こえたのか、(たぶん顔にでてたんだと思う)ジョングクさんが言った。
少し拗ねたような表情だった。
そして、まだ差し出されたままの私の手にそっと目を向けた。
時間で言うと、たぶん2分間くらいはあったと思う。
(なんでそんなに見てるんだろう)
ジョングクさんが、私の手を見つめながらそっと口を開く。
油断すると聞き逃してしまいそうなほど小さな声。
そのせいか、その言葉の意味を噛み砕くのに時間がかかる。
(こちらこそ?)
な、なんの話だろう。
私が密かにプチパニックを起こしているその時、ジョングクさんが私の手に自らの手をそっと重ねてきた。
(っ!?!?)
今度は、はっきりと聞こえた。
それでも、ジョングクさんがなんの事を言っているのかわからない。
だけど、なにか言わなくちゃいけない。
ど、どうしよう。そんな気持ちのなか、
勢いで答えてしまった後、ああこれは握手なんだ、と頭の片隅で考えた。
そして私は再び恥ずかしくなる。
ジョングクさんが目線をあげる。
(…っ)
思い切りジョングクさんをガン見していたせいで、バッチリ目が合ってしまった。
それがなんだかとっても恥ずかしくて慌てて目線を逸らすと、口をあんぐりと開けたままのテヒョンが視界に入った。
またしても、そんなことで驚くテヒョン。
いやいや、あなた親友ですよね?
そう言いたい気持ちをぐっと堪える。
もう一度ジョングクさんの方に目を向けてみると、彼は少し恥ずかしそうに見えた。
ジョングクさんは、決まりが悪そうに視線を逸らす。
それと同時に、重なっていた手も離された。
(見すぎたかな)
あまりにもガン見されて(私とテヒョンから)ジョングクさんは居た堪れなくなったのか、ぼそりと呟いた。
ジョングクさんは、その後も目が点のままのテヒョンを1度チラリと見てから、「じゃあ俺先に行くから」、そう言ってスタスタと歩きだした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。