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第1話

夢の中
80
2017/11/09 16:54
私の前に、大男が立っている。
いや、本当に大男なのかは分からない。
ただ、私の頭のてっぺんが丁度膝の位置なのだがらきっと大男だ。
その大男は私に問う。
大男
キミ、名前は?
あなた

私はあなた。

あなた

お兄さんこそ、誰なの?

大男
ふぅん、あなたか…。良い名だ。大事にしなさい。
大男は私の『あなた』という名前は聞き取れたくせに、私の質問は聞こえなかったようだ。その大きな耳ならどんなに小さな音も聞こえてしまいそうなのに。
見掛けは大きいけど、実は中身は私とおんなじ大きさだったりして。それこそただのお飾りだ。
『きっとそうだ』と決めつけた私は、そのお飾りに向かってめいいっぱい上を向いて話しかける。
あなた

あなたは、何者?

大男
…………
あなた

ねえ、答えてくれないの?

大男
……ボクのことは口が裂けても話せないよ
あなた

……変なの

あなた

口が裂けたらきっと話しちゃうよ?

大男は困った様に小さく肩をすくめて笑った。

何者か口が裂けても言えないなんて。年齢とか、お仕事とか、それぐらい教えてくれてもいいのに。あと身長とか。
いろいろ知りたかった私はがっくりと肩を落とす。

そんな私を見て、大男は大きな手で私の頭を撫でた。
大男
話せない約束なんだよねぇ
あなた

……ちょっとぐらい話してくれてもいいじゃん。

大男の足の甲一点を見つめて更に落ち込む私を見て、大男はある事を教えてくれてた。
大男
じゃあ、ひとつだけ。あなたに教えてあげる。
あなた

え!本当に!?

うんうん、と大きく、それこそ本当に大きく、大男が頷いた。ひとつだけでも教えてもらえるのが、とても嬉しくて私はその場でぴょんぴょん跳ねた。
大男
ふふふ、そんなに嬉しい?ほら、じっとして。
頭に置かれていた手が、そっと肩に触れる。
大男
いいかい?ボクはあなたの夢の中の存在だ。つまり、今後会えるか会えないかは、キミ次第ってことだね。
あなた

わたし次第?

大男
そう。あなた次第だ。
あなた

じゃあ、もう会えないかもしれないの?

ジェットコースターが急降下するみたいに私は一気に悲しくなる。さっきあんなに跳ねてたとは思えないほど。

それを見て大男はまた小さく、優しく笑った。
大男
大丈夫。いつかきっと会えるよ
あなた

また会うには私はどうすればいい?

大男
ひとつだけ教えるって言ったでしょ?だからそれは教えられないよ
大男
夢の世界から戻ってこない人がいたり、夢の中で、ボク以外の知らない人にあったら、そいつにこう言うんだ。
私を慰める様に微笑んだあと、表情を引き締めて大男が口を開く。
大男
夢、儚きもの

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