私の前に、大男が立っている。
いや、本当に大男なのかは分からない。
ただ、私の頭のてっぺんが丁度膝の位置なのだがらきっと大男だ。
その大男は私に問う。
大男は私の『あなた』という名前は聞き取れたくせに、私の質問は聞こえなかったようだ。その大きな耳ならどんなに小さな音も聞こえてしまいそうなのに。
見掛けは大きいけど、実は中身は私とおんなじ大きさだったりして。それこそただのお飾りだ。
『きっとそうだ』と決めつけた私は、そのお飾りに向かってめいいっぱい上を向いて話しかける。
大男は困った様に小さく肩をすくめて笑った。
何者か口が裂けても言えないなんて。年齢とか、お仕事とか、それぐらい教えてくれてもいいのに。あと身長とか。
いろいろ知りたかった私はがっくりと肩を落とす。
そんな私を見て、大男は大きな手で私の頭を撫でた。
大男の足の甲一点を見つめて更に落ち込む私を見て、大男はある事を教えてくれてた。
うんうん、と大きく、それこそ本当に大きく、大男が頷いた。ひとつだけでも教えてもらえるのが、とても嬉しくて私はその場でぴょんぴょん跳ねた。
頭に置かれていた手が、そっと肩に触れる。
ジェットコースターが急降下するみたいに私は一気に悲しくなる。さっきあんなに跳ねてたとは思えないほど。
それを見て大男はまた小さく、優しく笑った。
私を慰める様に微笑んだあと、表情を引き締めて大男が口を開く。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!