私が見る夢はいつもどこか不気味で、"あの親父"が我が家へやってくる前日も幼かった私は夢を見た。
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白く霧がかった世界で、私は母親と手を繋いでバス停に立っていた。
なんだか悔しくなって、私は隣の母親の顔を精一杯睨んだ。それでも母親は目を細めてニコニコと微笑むだけ。
その時、やっとバスの音が聞こえてきた。同時に辺りの霧が少しだけ晴れた。
バスが近づくにつれて霧はどんどん無くなり、周りの建物や歩く人も、何もかも消えていた。
まさに『空間』という世界に取り残されたのは私と母親だけ。
遂にバスが私たちの前に停車した。何も無くなった灰色の世界に、真っ赤なバスがたった一つ色を与えている。
その景色が不気味で堪らなかった。
バスの扉が開く。運転席には人影はない。誰が運転したのだろう…。
母に満面の笑みを向けられると、それ以上は何も言えなかった。
バスの中に見える人影が手招きした。
しょうがなく私も母のあとを続いてバスのステップに片足をかけた。
『あいさつは?』と母に言われて、私はペコリと頭を下げた。頭をあげて、これから父親になる人物を見上げる。
不気味な空間。手足がしびれる感覚。何故かどうしようと焦る気持ち_____
目が合った男が浮かべた笑みを見て、この全ての感覚が波となって私を飲み込んでゆく。
一言で言うとそれは『違和感』。
だけど、『違和感』では表しきれないほどの感覚。
男はそっと手を差し出し、母がそれを握る。
その瞬間、母が男に飲み込まれて行った…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。