第4話

"あの親父"の夢
64
2017/11/12 15:02
私が見る夢はいつもどこか不気味で、"あの親父"が我が家へやってくる前日も幼かった私は夢を見た。

_________

白く霧がかった世界で、私は母親と手を繋いでバス停に立っていた。
あなた

バスまだー?

母親
ふふふ、あなたったら何回その質問をするの?もうすぐよ。もうすぐ。
あなた

だって、さっき聞いた時ももうすぐだったのにまだ来ないんだもん

なんだか悔しくなって、私は隣の母親の顔を精一杯睨んだ。それでも母親は目を細めてニコニコと微笑むだけ。
その時、やっとバスの音が聞こえてきた。同時に辺りの霧が少しだけ晴れた。
あなた

………ねえお母さん

母親
なに?
バスが近づくにつれて霧はどんどん無くなり、周りの建物や歩く人も、何もかも消えていた。
まさに『空間』という世界に取り残されたのは私と母親だけ。
あなた

なんだかとっても怖い…

母親
そうだね…でも大丈夫。もうすぐ新しいお父さんが私たちを迎えに来てくれるからね
遂にバスが私たちの前に停車した。何も無くなった灰色の世界に、真っ赤なバスがたった一つ色を与えている。
その景色が不気味で堪らなかった。
あなた

お父さんなんていらないから、もう帰ろうよ

母親
何言ってるのお母さんはこの人と生きたいと思ったの。大丈夫、あなたの事だってきっと大切にしてくれるわ。
バスの扉が開く。運転席には人影はない。誰が運転したのだろう…。
あなた

やだ!絶対に乗らない!

あなた

お母さんも帰ろうよ!!

母親
何がそんなに心配なの?きっと何もかも今までより幸せになるに決まってるわ。
あなた

……………

母に満面の笑みを向けられると、それ以上は何も言えなかった。

バスの中に見える人影が手招きした。
しょうがなく私も母のあとを続いてバスのステップに片足をかけた。
母親
遅かったじゃない。ワクワクしながら待ってたのよ?
母親
ほら、この子があなた。あなたに慣れるのは少し時間が必要かも知れないけど、自慢の娘なの。仲良くしてやってね?
『あいさつは?』と母に言われて、私はペコリと頭を下げた。頭をあげて、これから父親になる人物を見上げる。
あなた

………?

不気味な空間。手足がしびれる感覚。何故かどうしようと焦る気持ち_____

目が合った男が浮かべた笑みを見て、この全ての感覚が波となって私を飲み込んでゆく。
一言で言うとそれは『違和感』。
だけど、『違和感』では表しきれないほどの感覚。
男はそっと手を差し出し、母がそれを握る。
その瞬間、母が男に飲み込まれて行った…

プリ小説オーディオドラマ