プリ小説

第7話

A氏の夢とは 大男の手記②
ルンルンとの楽しい食事と、一人でふんふん歌いながらの入浴を終えて、A氏は眠る用意を始めた。
A氏
ルンルンおやすみ。また明日も、かわいい笑顔を見せてね。
大男
……これはボクがどうにかしないとなぁ。
ボクは改めて相手の"ヲタク"意識の高さを思い知らされる。普通の夫婦だって寝る前に夫がこんなことを言うのは珍しいだろうに。
しばらくするとA氏は目を閉じ、ゆっくりと夢の世界への扉を開いた。ボクらが夢の世界に入り込むには、今開かれた夢の世界への扉から彼の夢に飛び込まなければならない。
ただ、扉のガードがゆるゆるな訳では無い。合言葉としてある言葉を言わなければ扉を通ることは出来ない。
大男
さあ、お邪魔しちゃおうかな
ボクは扉をじっと見詰め、意識を集中させて合言葉を発した。
大男
夢、いかなる時も幸せな空間であれ。
すると、ガチャガチャと音がして扉が開く。何度やってもこの瞬間は謎の快感を得られるものだ。
さあ、A氏はどんな夢の世界を描いているのだろうか……
まず最初に僕の目に飛び込んできた光景は、ルンルンと同じ種類の人間だ。ある人は髪色が水色、またある人は橙色。みんな足をかなり露出させ、フリフリとした衣装をまとっている。
大男
…キミはきっと"ヲタク"の鏡なんだろうね
ここでもボクは彼の"ヲタク"意識の高さを見せつけられる。もう充分、お腹いっぱい見てきたのにまだ見せてくるか、コイツは。
遠くからA氏の話し声が聞こえてくる。その声はだんだんボクの方へと近づいてきている。
いや、A氏だけの声ではない。女性の声も聞こえてくる。どうやら、夢の中では女性と話しているようだ。



と、少し安心したのも束の間。
A氏
次はどこに行く?ルンルン?
大男
……今ルンルンって言ったのか?
A氏の隣で手を繋いで歩き、一緒に会話をしていた女性とはルンルンだった。どうやら夢の中でのルンルンは部屋にいるルンルンとは違って側で歩き、会話することが出来るようだ。
大男
……夢の中で急にハイスペックになりやがって
ボクはとりあえずルンルンとA氏を引き離し、ルンルンが立っていた場所に自分の姿を現して立った。
A氏
え……誰?…デカいな。
A氏は困惑している。まあ、急に隣に大男が音もなく立っていたら怖いだろう。
申し訳ないが、A氏に同情する時間はない。いつもの手順で相手に話しかける。思いっきり優しいお兄さんを演じるのだ。
大男
ねえ、キミの名前はなんていうの?
A氏
え、サトルだけど。
大男
サトルねぇ。名前はカッコいいんだね
A氏はツンと口を尖らせてそっぽを向いた。
ダメだ、今日は優しいお兄さんになれない。
もう優しくないお兄さんでいこう。
大男
サトル、お前がそんなのやっても可愛くないけど。
そう言うとA氏は顔を真っ赤にしてこちらを振り向いた。
A氏
おい、余計なお世話だよ!!
大男
でもね、サトル。お前の顔はカッコいいんだ。学歴、キャリアも申し分ない。そんなお前の遺伝子を、しっかり後世に残してほしいんだ。
すると、A氏は何を言いたいか分かったように目を細める。
A氏
それって、俺に結婚して家庭を持てって言いたいんでしょ?
大男
分かってるんじゃーん
A氏
いや、俺、子供はいないけど結婚してるからね?
大男
いや、ボク、それぐらい知ってるからね?
A氏
………??
A氏はきょとんとしている。まあ、それゃそうだ。今まで自分とルンルンだけの秘密だったのだから。他の誰かが知ってるなんて想像もできないだろう。
大男
キミの奥さんは、ルンルンって言う女性でしょ?
A氏
……なんで、
大男
ボクは、ちゃんと、人間の女性と結婚して幸せになって欲しいんだよね
A氏
……
大男
じゃあ、サトルにとって、夢の中ってどんなもの?
A氏
そうだなぁ…
A氏は少しだけ考えたあと、ぱっと顔を上げた。
その瞳はとてもキラキラしている。
A氏
夢って、全部自分が都合いいように進むでしょ?
例えば、夢の中だと俺はルンルンと手を繋いで隣で歩くことが出来たり。
だから、俺にとって夢って……とっても素敵な空間だよね。
夢の世界に行くために一日頑張ってるって言っても過言じゃないくらい、俺にとっては支えになってるかな。
ボクが予想していたよりもはるかに夢の中でのルンルンの存在が大きすぎて、このまま任務を遂行しても大丈夫か、少し不安になる。
でもきっと大丈夫。
話してみて分かったが、意外と彼は芯がしっかりしているタイプだった。
うん、きっと大丈夫。
大男
ねえ、ルンルンのこと、一回忘れてみたら?きっとモテるよ?
A氏
……なんでお前にそんな事言われないといけない?
大男
なんで、か?それは教えられないねぇ
説明しようにもできないし、めんどくさいし。今まで1度も夢の中で自分の身分を明かしたことは無い。
大男
とにかく、ボクは君のことを思ってこう言ってるんだよ?
A氏
ホントに、ルンルンから離れたらモテるの?
大男
ああ、もちろん。
お世辞じゃなくて、本当にA氏は整った顔をしていると思う。彼からルンルンの存在を消して、"ヲタク"道から抜け出してくれたら…。
A氏
…………やってみ、る。
大男
うん、がんばってね
ボクはくるっと回れ右してそのまま入ってきた扉から出ていこうとした時、「待って!」と呼び止められる。
A氏
本当に、誰なのかは教えてもらえないの?
大男
じゃあ……ひとつだけ。いいことを教えてあげる。
大男
もし、夢の中でボク以外の知らない人にあったり、夢の世界から帰ってこない人がいた時は、この言葉を叫ぶんだ。
その言葉は、例えるならあの有名な破滅の呪文「バルス」のようなものだ。夢を強制的に壊して終わらせる言葉。
ボクは大きく息を吸って、A氏の目を真っ直ぐ見て、その言葉を伝える。
大男
夢、儚きもの
A氏
え?…うわっ
その瞬間、夢の中の空間がぐわんと歪み、ボクは気づくと扉の外に立っていた。
この言葉を教えたのには理由がある。
夢創屋以外の者がこの扉を通ると、少しの間だけガードが緩くなってしまう。そうなると、悪夢しか作り出さない組織が入ってきてしまうことがあるのだ。この時にきっと、あの言葉は役に立つだろう。
大男
…上手く使えよ
色々と不安だが、とりあえず今はやってみると言ったA氏のことを信じてみようか。
ボクは次の観察対象を確認するため、手帳をパラパラとめくる。
大男
さーてと、次は?
〈コードネーム:Q〉…なるほどね。
予知夢を見れる能力があるんだ…
この子にも「夢、儚きもの」って伝えた方がいいみたいだね。
手帳をパタッと閉じると、再び雲の上へ登った。
次の観察対象であるQ氏の元へ向かわなければならない。

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゜すずり。
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゜すずり。
年中無休で低浮上です 推しにファンサ貰った瞬間だけ 脳から取り出してダビングしたい。❤ 妄想系書かない🙅× 恋愛系は練習中です…期待もほどほどに。 ARASHIAN.Hooligans.Moonwalker.
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