あれから数日間、彼女からの連絡はなかった。
何度かこちらから連絡をしようとも思ったが、掛ける言葉が見当たらずに スマホを置いた。
あの日のことを後悔しているのだろうか。
本当は脆くてか弱い人だから、自分を責めているのかもしれない。
つまらない教授の講義は、先輩のことを考えているとあっという間に終わる。
大学でも先輩の姿を探してはいるものの、そう簡単には見つからない。
「佐々木、学食行こーぜ」
「おう」
恋というものは厄介なもので、もしかしたら避けられているのかもしれないなんて 俺をネガティブな思考にさせるのだ。
重たい足取りで向かった食堂は、すでに多くの学生で混みあっていた。
食券を買うために長蛇の列に並んでいる時も、キョロキョロと周りを見回し 彼女の姿を探す。
「佐々木?前 空いたぞ」
「あ…あぁ。悪い」
「どうした?ぼーっとして」
「いや。…平気」
体を繋げれば 彼女を手に入れられるなんて、そんなふうに思っていたわけではない。
ただ、少しでも俺を意識してくれれば良かった。
それだけで、良かったのに。
どうして こんなにも距離ができてしまったのだろうか。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!