学校を出て、永瀬くんと話していると突然植え込みから猫が鳴きながら飛び出してきた。
………エーシュカ!?
この毛の色、瞳の色はエーシュカしかいない。絶対エーシュカだ。
この前禁止命令出したばっかりなのに!
もうこうなったら…
約束を破った罰として、知らんぷりをすることにした。
また歩き出すと、エーシュカは私たちの後ろをついくるようになった。
うう、何がしたいんだ…
エーシュカの意図が全く掴めない。
しかもこれから私たちは家じゃなくてあるお店に行くっていうのに。
永瀬くんが後ろをチラチラ振り返りながら言った。
エーシュカとの距離はあるものの、私の家の猫だってバレていないだろうか…あ、そっか。永瀬くんは私が猫を飼っていることは当たり前に知らないか…馬鹿だなぁ私。
私がそう苦笑いすると、永瀬くんは急に立ち止まり、私の髪に顔を寄せた。
そして顔を離すと「確かに甘い匂いする」とボソッと呟き、また歩き始めた。
な、に。今の。なんだ今の漫画みたいなシーンは!!え、なんだなんだこの状況…
その時、後ろにいたエーシュカが私の横を走り去り、少し前を歩いていた永瀬くんににゃあ!と大きく鳴いた。そのあと、どこかへ逃げてしまった。
ばかばかばか!やめなさいエーシュカ…!
永瀬くんがご主人様(私)に噛み付いたとか思ったんじゃないのかな。そうであるなら、とんだ勘違いだよエーシュカ〜…!私の願い、届かず。
猫に突然威嚇された永瀬くんは、「この猫、面白いね」とフッと笑った。
ああよかった、怒ってなかった。永瀬くんが心の広い人でよかった。
ごめんね永瀬くん。と心の中で盛大に土下座をし、また私は永瀬くんの隣を歩き始めた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!