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第13話

呼び捨て
その日から、ずっとエーシュカの機嫌が悪い。


私が名前を呼んでもこっちに来てくれないし、私が用意したご飯は食べてくれない。

お母さんは「反抗期かしらね〜」と笑って言うが、猫に反抗期なんてあるのか。
いや、あってたまるもんか。

今のエーシュカには、人間の言葉が話せる。ただの猫とは違うんだ。

だから、エーシュカに「人間の姿になってよ!」とお願いしても知らん顔。私の方なんて見向きもしなくなった。


うーん、やっぱりほんとうに「ご主人様(私)が永瀬くんに首筋を噛まれた→それを守ってあげられなかった→悔しい」みたいなことを思ってるんじゃないのか。

可能性はゼロじゃないけど…なぁ第一、猫に犬みたいな忠誠心が存在するのか。ましてやあの金髪男、エーシュカに、だ。

でももうこれしか考えつくものがないから、私の部屋で眠たそうにしているエーシュカに声をかけた。
あなた

私は永瀬くんに首筋を噛まれたわけじゃないから!永瀬くんは吸血鬼じゃないから!だから…そんな自分責めないでよ

あなた

あと、もう私のこと避けないでよ…

ずっと可愛がっていた愛猫から嫌われるなんて、耐えられない。どうか、私の気持ちがエーシュカに届いて欲しい…

私が放った言葉の音が無くなった。
静寂に包まれた部屋で、私はじっとエーシュカを見つめる。

するとエーシュカは横になっていた体を起こし、その場でくるくると三回回った。

ふう…やっと人間の姿になってくれるんだね。よかった。

でも人間の姿になったエーシュカは無表情で、まるで感情がないようで。
エーシュカのこんな顔、見たことがない。
そんなエーシュカとバチっと目が合い、心臓が跳ねる。まだ、終わらない静寂。
エーシュカ
俺とは一緒に帰ってくれないのに
………?
エーシュカ
他の男とは一緒に帰るんだね
エーシュカ
…俺と帰るの、そんな嫌だった?
………!


予想もしてなかった言葉。
エーシュカの言葉が私の心に突き刺さる。
エーシュカ
嫌ならさ、もういいよ。あなたにはもう執着しないから
そして、今までずっと私のことを " あなたちゃん " と呼んでくれていたのに、突然呼び捨てに変わり、心臓が早くなる。

エーシュカは言い終わっても表情1つ変えず、ただ、私だけを見つめる。魔法にかけられたように、エーシュカから視線を逸らすことが出来ない。これは私の意思なのか。そして、なんて言おう、なんて答えたらいいんだろう、と考えているうちに、またエーシュカが口を開いた。
エーシュカ
俺、そろそろ帰んなきゃいけないんだよね、あっちに
" あっち " とはきっと " 猫の世界 " の事だろう。でもなんで?唐突すぎて頭が回らない。
あなた

……どうして?

エーシュカ
別に、あなたには関係ないから
関係ないことない。私はあなたの飼い主だというのに。だから私は、エーシュカから理由を聞く権利が、あるんじゃないのか。
エーシュカはすっと私から視線を逸らした。前髪がエーシュカの瞳を隠し、彼がどこを見ているのか分からない。


そして、私が何も言えないままでいると、エーシュカは痺れを切らしたのか、また猫の姿に戻ると、そのまま眠ってしまった。

…分からない。エーシュカのことが分からない。突然不機嫌になった理由も、猫の世界に帰らないと行けない理由も。


次の日の朝、私が目覚めると部屋にエーシュカの姿はなかった。
家族で手分けして探したけど、家中どこにもいなかった。

もしかして、本当に猫の世界へ帰ってしまったんじゃないか。

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