次の日の学校は、みんなに昨日の晩、エーシュカのことを説明していたから、この前みたいに大きな騒ぎにはならなかった。
…でも、永瀬くんだけは違った。
永瀬くんから、私が送ったメッセージに既読がついただけで返事は来ていない。
そして、全く私に声をかけなくなった。
あまりの変わりぶりに、私の友達も気づいたのか、" 永瀬と喧嘩でもしたの? " と聞いてくるほど。
私が否定すると、次は " もしかして永瀬はあなたのことが好きかもね " と茶化して来た。
そんなこと、あるはずがない。
男友達のいない私にとって、唯一、話しかけてくれるのは永瀬くんだったのに。
その日から、永瀬くんのこと、エーシュカのこと。学校でも家でもそのことばっかり考えてしまって、頭がおかしくなっちゃいそう。
しかも、最近エーシュカはずっと猫の姿のままで。私がお願いしない限り、人間の姿にはなってくれない。
…お願い、するしかないのかな。
そう決意を固めた日の夜。
部屋のベッドに横になりながら、ごろごろしていたエーシュカに私がそう言うと、くるくると三回回って、人間の姿になってくれた。
……よく考えれば、なんだかこの光景ももう見慣れてしまった。
他の人から見れば、超絶不思議現象だ。
人間の姿になったエーシュカは、あぐらをかき、
と、私を見つめる。
私は、これまでの永瀬くんとのことを話した。お姉さんの誕生日プレゼントを選びに行ったこと、公園で話をしたこと。突然メッセージが届いたこと。そして私の返信に既読無視をしたこと。
時折、私の話に驚いた様子を見せたが、最後までうんうん、と頷いくれた。
そして、私が最後まで話し終わると、
意外な質問に、思わず静止してしまう。
そして、答えるまでに少し間をとってしまった。
私がそう答えると、エーシュカは少し満足そうな表情を浮かべるが、言葉では" そっか " と答えるだけ。
この前、友達が"もしかして永瀬はあなたちゃんのことが好きかもね"と言った言葉を思い出す。
せっかく頭の引き出しにしまっていたのに、また現れてしまった。
永瀬くんが、私のことをそんな風に見ているなんて、全然感じない。
むしろ永瀬くんも私と同じように " 話しやすい異性 " としてしか見ていないんじゃないのか。
でも確かに言われてみれば、そうかも?と思い当たるところがある。
クラスの女子で、私にしか声をかけないこと。しきりに " あの金髪と付き合ってるの? " と聞いて来たこと、それと、お姉さんの誕生日プレゼントを私に選ばせたこと。
永瀬くんにそのことをお願いされた時、" どうして私なの? " と尋ねた。そうすると永瀬くんは " 家が近いから " と答えた、っけ…
( ちなみにそこまで家は近くない )
………でもこれだけじゃ判断要素が少なすぎる。
本当に、そうだ。本心なんて、聞いてみなきゃ分からない。
だから、エーシュカのことも。
本人に聞いてみないと、分からないんだ。
私は近くにあったぬいぐるみを抱きしめ、顔をうずめる。
「………私、どうしたらいいんだろう」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!