エーシュカが置き手紙を残してから数日後、朝起きるとやっぱり何事もなかったように眠りについているエーシュカの姿があった。
私が今見ているのは、猫の姿をしたエーシュカのはずなのに、頭の中では、人間の姿をしたエーシュカを思い描いてしまう。
早く、起きてくれないかなぁ…
聞きたいことはたくさんある。
猫の国で何をしていたの?いつミーシャちゃんと知り合いになったの?私もまだミーシャちゃんに会っていないのに。
……ううん。でも、それより、私は言いたいことがある。伝えたい言葉がある。
私はベットから降りて、眠っているエーシュカの元へ寄る。……そういえば、猫の国へ行っている間、ご飯は食べたのだろうか。
道端に生えている雑草なんか食べていないだろうか…
ああでも、ミーシャちゃんが一緒なら、何となく大丈夫かもしれない。…分からないけど。
私がエーシュカの寝顔を眺めながらあーだこーだ考えていると、エーシュカがぱちっと青い瞳を覗かせた。
あ……起こしてしまったのかな。
って、目を開けた瞬間、すごそこに私の顔があるなんて、何だか私が寝込みを襲っているみたいである。
私は慌ててエーシュカから離れる。今の私、なんだか嘘っぽくなっていないだろうか……勘違いされたらどうしよう…エーシュカのことだ。何だか私を変に誤解しているかもしれない。
私は頭を左右にブンブンと振る。ああもう朝からやってしまった……
しかもエーシュカは帰ってきたばかりだから、本当はもっと気の利いた言葉を言いたかったのに!
" おかえり。お疲れ様 " とか、 " あなたが帰ってくるのを待っていたわ " とか……
上品な言葉で迎えたかったのに……!
も、もしかしたら下品な女だって思われているかもしれない……
すると、そんな私を見てまるで状況がつかめないエーシュカは、猫の姿のままだと言葉が発せないと思ったのか、人間の姿になってくれた。
寝起きのままで変身したから、人間のエーシュカも頭に寝癖がついている。金髪がくるん。しかもあのエーシュカに寝癖……
………可愛い!
パチパチと私を見つめるエーシュカ。
そして少し伸びをして、
と、いかにもニヤついた表情を浮かべる。
やっぱり真に受けてた……
エーシュカのニヤニヤは止まらない。
本当にバカらしい。誤解されるような体勢だった私も私だけど!
" 猫でも人間でも襲いません! " と私はキッパリ否定。
さっきまで盛り上がっていた(?)空気が一気に風船のようにしぼんでしまった。
エーシュカはあぐらをかきなおし、こめかみをかく。
私もその場で体育座りである。
………なんとなーく、気まずい雰囲気。
これは私が空気の入れ替えをするべき?
そう思って、口を開こうとしたら、
いきなり謝ってくるから、私は首を横に振ることしかできない。
えっと、なんで?なんで謝るの?
……確かに、ちょっと。ううん、かなりびっくりしたけど、不思議と嫌じゃなかった。飼い猫から好きだなんて言われるなんて、きっと普通だったら距離を置くのかもしれない。
でもきっと、私は、確信があったから。
だから素直にその言葉を受け止めていた自分がいたんだろう。
慎重に言葉を選ぶようにして、言ってくるから、きっと何かあったんだろう、とこんな私でも察することができた。
………永瀬、くん?どうして彼の名前が出てくるんだろう。…あ、もしかしたらあの日。永瀬くんと私が二人で帰っていた時だ。
嫉妬、してくれていたのかな。別に自惚れているわけではない。でも、今のエーシュカの顔を見ると、冗談を言っているようには見えない。
ああ、だからそのあと数日間、不機嫌だったのかな…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。