「そういえば、西條先生って…」
夕日が街を照らす頃。
隣を歩く彼女の声は 全くもって私の耳には届いておらず、代わりに“もう 終わりにしよう”という彼の言葉が ずっと頭の中で鳴り響いていた。
いつまでもこんな関係が続くなんて、そんなふうに思っていたわけではない。
それでも、終わりが来なければいいのにと願ったのは事実だ。
「ねぇ、聞いてる?」
「…え?あ、ごめん」
思えば、彼のことは何も知らなかったような気がする。
触れられることは多くとも、私から触れることは少なかった。
話題をつくってくれるのはいつも彼で、質問をするのだって 彼の方だった。
聞きたいことは山ほどあるはずなのに、彼への好意を自覚する度に 自信はなくなっていき。
こんなことを聞いたら 嫌われるんじゃないか。
変に思われるんじゃないか。
そんなことで頭はいっぱいになっていた。
「西條先生、好きな子いるんだって」
だから、手遅れになってしまったのだろう。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。