ここ最近、元気がなかったことを知っていたからこそ、俺は電話越しの声に安堵を覚える。
相談に乗りたいとも思っていたし、元気づけたいとも思っていた。
まぁ、どうやらそれは必要なかったらしい。
「...で、何かあった?」
「あぁ...ここ最近元気なかったからさ、何かあったかなと思って」
「...ありがと。さすが、何でもお見通しなんだね」
「俺で良ければ話聞くけど...話せる内容だったら今頃誰かに相談してるか」
「...うん。ごめん」
「じゃあさ、気晴らしにどこか遊びに行かない?」
「え...でも、部活とかで忙しくないの?」
「平気平気。最近大会も終わったからさ、俺もちょっと息抜きしたいんだよね」
電話越しに聞こえてくる笑い声に、彼女の笑顔を見たいと思ってしまう。
デートなんて、そんな大したものじゃない。
それでも、少しだけでも俺のことを意識して欲しかった。
“男”としての俺を、見て欲しかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!