「...あなた?」
電話越しの声にはっとし、慌てて「なに?」と返事をする。
変だと思われたに違いない と思いながらも、どこか浮ついた気持ちは隠しきれないもので。
「何かあった?」
「なんで?」
「いや...何か嬉しそうだからさ」
電話越しでも伝わってしまうのは、彼との付き合いが長いからなのか。それとも私がわかりやすいだけなのか。
「何もないよ」
「あなたは分かりやすいからな」
「...ほんと?」
「嘘つくの下手くそだもん」
先生のジャージをそっと抱きしめ、彼の匂いに包まれると 思わず笑みが漏れてしまう。
決していい匂いとは言えないタバコの匂い。
なのにどうして、好きな人の匂いというだけで、こんなにも愛おしくなるのだろうか。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!