第9話

encounter〈 I 〉
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2017/11/19 10:09
私が結先輩を好きになった日のことは、よく覚えている。

中学1年生になったばかりの私と澪莉は、管理棟で迷子になっていた。

『ねえどうしよう授業始まっちゃう』

『やばい、やばいね、ここどこおお』

私たちは入学早々、理科の授業に遅刻しそうになっていたのだ。

『たしか、奥にあったよね ……?』

『えっ、こっちじゃなぅわあっ』

ドンッ。

私は誰かとぶつかった。

死角になっていたので、そこから人がくるなんて分からなかった。

『ごめんなさい!』

先輩とぶつかってしまっていた。

名札には【中尾 結】と掘られていた。

『俺こそごめん。大丈夫?怪我してない?』

『あ、だだだだ大丈夫です』

『そう、よかった』

その人は、そう言って微笑んだ。

左右対称の整った顔のパーツが、ふにゃふにゃに崩れ、笑窪があらわれる。

その時私は、その先輩に一目惚れしてしまった。

『迷子?』と聞かれ、私が理科室を探していることを言うと、そこまで案内してくれた。

『やば、俺遅刻するわ。じゃあね!』

それだけ言ってその人は、走り出してしまった。

どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。

かっこいい ……… 。

お礼言ってないよ …… 。

頭の中が先輩のことでいっぱいになった。

心拍数は通常の2倍くらいに上がっていた。

そして私はその時気づく。

澪莉を置いてきてしまったことに ……!!!

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