私が結先輩を好きになった日のことは、よく覚えている。
中学1年生になったばかりの私と澪莉は、管理棟で迷子になっていた。
『ねえどうしよう授業始まっちゃう』
『やばい、やばいね、ここどこおお』
私たちは入学早々、理科の授業に遅刻しそうになっていたのだ。
『たしか、奥にあったよね ……?』
『えっ、こっちじゃなぅわあっ』
ドンッ。
私は誰かとぶつかった。
死角になっていたので、そこから人がくるなんて分からなかった。
『ごめんなさい!』
先輩とぶつかってしまっていた。
名札には【中尾 結】と掘られていた。
『俺こそごめん。大丈夫?怪我してない?』
『あ、だだだだ大丈夫です』
『そう、よかった』
その人は、そう言って微笑んだ。
左右対称の整った顔のパーツが、ふにゃふにゃに崩れ、笑窪があらわれる。
その時私は、その先輩に一目惚れしてしまった。
『迷子?』と聞かれ、私が理科室を探していることを言うと、そこまで案内してくれた。
『やば、俺遅刻するわ。じゃあね!』
それだけ言ってその人は、走り出してしまった。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
かっこいい ……… 。
お礼言ってないよ …… 。
頭の中が先輩のことでいっぱいになった。
心拍数は通常の2倍くらいに上がっていた。
そして私はその時気づく。
澪莉を置いてきてしまったことに ……!!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。