結局私たちは遅刻してしまった。
先生は、まだ慣れていないから、という理由で遅刻しなかったことにしてくれた。
よかった …… 。
その日の授業は全く集中できなかった。
先輩のことで頭がいっぱいだった。
そういえば、あれ ……?
中尾 結って、なんか知ってる気がする。
それに、走り去る時のあの柔軟剤の匂い。
懐かしい匂い、ゆーくんの匂いと同じだった。
学校が終わり家に帰ってすぐ、お母さんに聞いてみた。
『中尾 結ってそれ、ゆーくんよ』
あの事故が起きてすぐ、ゆーくんは解離性健忘に詳しい医師がいる病院の近くに引っ越した。
まさか、あの人が、あの、ゆーくん ……?
信じられなかった。
まさか、ゆーくんにまた会えるなんて。
でもゆーくんは私のことを覚えていない。
だから私はゆーくんにとって、ぶつかっただけのただの後輩ってことになる。
それがすごく悲しかった。
自室の奥行きのあるクローゼットの1番奥にある段ボールを漁り出す。
その日の夜、久しぶりに、その中にある100枚以上のゆーくんとのツーショットを見た。
その時私の頬には、一筋の涙が伝っていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。