第10話

encounter〈 II 〉
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2017/11/20 07:13
結局私たちは遅刻してしまった。

先生は、まだ慣れていないから、という理由で遅刻しなかったことにしてくれた。

よかった …… 。

その日の授業は全く集中できなかった。

先輩のことで頭がいっぱいだった。

そういえば、あれ ……?

中尾 結って、なんか知ってる気がする。

それに、走り去る時のあの柔軟剤の匂い。

懐かしい匂い、ゆーくんの匂いと同じだった。

学校が終わり家に帰ってすぐ、お母さんに聞いてみた。

『中尾 結ってそれ、ゆーくんよ』

あの事故が起きてすぐ、ゆーくんは解離性健忘に詳しい医師がいる病院の近くに引っ越した。

まさか、あの人が、あの、ゆーくん ……?

信じられなかった。

まさか、ゆーくんにまた会えるなんて。

でもゆーくんは私のことを覚えていない。

だから私はゆーくんにとって、ぶつかっただけのただの後輩ってことになる。

それがすごく悲しかった。

自室の奥行きのあるクローゼットの1番奥にある段ボールを漁り出す。

その日の夜、久しぶりに、その中にある100枚以上のゆーくんとのツーショットを見た。

その時私の頬には、一筋の涙が伝っていた。

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