「あら、あなたちゃん!こんにちは」
「万祐子さん …… 」
何年ぶりだろうか。
万祐子さんとは、ゆーくんのお母さんのことだった。
ゆーくんのお母さんとは、ゆーくんが引っ越して行った日から一度も会っていない。
黒髪で肌が白く、心が強い、まさに大和撫子と言える綺麗な女性だ。
あの頃から何ひとつ変わっていない。
「ちょうどスーパーで会ってね、うちに誘ったの」
お母さんが言った。
「そう、なんだ … 」
事故のことがあったから、少し気まずかった。
私のせいだ、と、責められたりしないだろうか …… 。
「あなたちゃん、美人なお姉さんね」
しかしそんな心配はいらなかった。
万祐子さんは優しく微笑んでくれた。
「万祐子さんこそ、昔と変わらずお綺麗です」
お世辞ではなかった。
「ふふっ。… あっ、それより」
万祐子さんは何かを思い出したように話し出した。
「まさか、あなたちゃんと同じ学校の同じ部活とはね!びっくりしたわ〜」
「あっ、私もびっくりしました」
遠慮がちに微笑んだ。
「あなたも座る?」
お母さんに訊ねられたが、断っておいた。
なんとなく、落ち着かなかった。
心がザワザワする。
私は、挨拶をしてその場から逃げるように立ち去った。
今にも泣き出してしまいそうで怖かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。