「ただいまー」
誰もいなくてもとりあえず言う。
「はぁ、」
静かな家。
今日も誰もいない。
先生はでかいなって言うけど、広すぎて寂しいよ。
あ…。
“うわぁ、広ーい!”
なんて、先生の部屋で言ったなぁ。
先生も寂しいのかな…?
どうなのかな…?
そう考えながら制服から私服へ着替える。
するとスマホが鳴った。
「もしもし」
お母さんかな?
『俺だ。』
「…。え!先生!?」
『あぁ、そうだ。』
「え、え??どうしたの?」
私は先生からの電話が嬉しすぎて声が弾む。
『いや、その、大和が何かしら聞いてくるかもしれないが、あんまり気にするな』
「はぁ。よくわかんないけど、わかった。」
『それだけだ。じゃあ…』
切ろうとする先生にすかさず、
「あ!待って!」
と言った。
『なんだ?』
「えーっと…。」
“先生と一緒にいたい。”
なんて言ったらダメかなぁ。
先生といると楽しいし、心が軽くなる気がする。
でも…
先生に迷惑はかけられない。
そうだよ。
しかも、“先生”なんだよ?
何言ってんの自分。
「ごめんね、何でもないよ。」
『そうか…。なんかあったら電話しろ。』
「うん、ありがと。またね。」
私は電話を切り、しばらくスマホを見つめていた。
「はぁ、」
こんなにガッカリするなら言っとけよ!
と自分に言う。
でも、でも、でも…。
「あー!もう!」
ベッドに倒れこむ。
「やだなぁ。」
私は枕に顔を埋めながら呟いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!