第54話

Chapter 54
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2017/12/29 09:13
私は放課後、準備室へ向かった。

コンコン

「失礼しまーす。」

先生はいつもの様にクルッと椅子をこちらへ向ける。

「おう。ちょっと待ってろ。」

先生はパチパチとキーボードを叩く。


しばらくすると、

「よし。出来た。」

と、エンターキーを押し、伸びをした。

「何してたの?」

「ナイショ。」

「ふーん。」

あ、そうだ。千紗の事言おうと思って来たんだ。

ねぇ、と言おうとした時、先生が言った。

「屋上行くか?」

「え?いいの?」

この前行けなくてがっかりしてたからかな?

「俺の特権だからな。」

そう言って、鍵を取り出す。

「行くか?」

「行く!」

私は目をキラキラさせながら言った。

「ついてこい」

そう言って、先生はそそくさと準備室のドアへ向かう。

「はーい。」




ガチャ

先生が屋上のドアを開ける。

「うわぁ。」

そこはまるで、違う世界の様だった。

「綺麗…。」

目の前には、夕日に照らされた雲や、綺麗なグラデーションをしている空が広がっている。

私はその景色に見とれていた。


「なぁ、あなた。」

不意に先生はそういいながら、タバコに火をつける。

カッコいい。

スラッと長くて、少しゴツゴツした手。

そして、柔らかい風が吹くと、ふわっと白衣が揺れる。

「ん?」

私はその場に座って、空を眺めた。

「なんでもない。」

「そう言えば、昨日あった事を言うために来たんだろ?」

「うん、そうなの。」

「どうだった?」

「んーとね、驚いてたよ。思わず笑っちゃった。イケメン!って大絶賛!」

ふふっ、と笑いながら言う。


「あとね…話してくれてありがとう。って言ってくれた。」


「そうか、良かったな。」

「うん。」

「ねぇ、先生…ありがとう。」

「何がだ?」

「いっぱいだよ。」

そう言いながら、先生を見る。

先生は、私の方に背を向けながらタバコを吸っていた。

大きな背中。

抱きついちゃいたいなぁ。

そんな事を思うながら言う。

「お前が信じるなら俺も信じる。そう言ってくれて本当に嬉しかった。」

「あと、心配してくれたし。看病してくれたし。だから、ありがとう。」

「別に、俺は何もしてない。」

ふふっ、ツンデレだなぁ。

本当はもっとたくさんの“ありがとう”があるんだ。

でも、全部言ったらきりがないからね。


先生がこちらを向いて柵に寄りかかる。

そして、目があった。

私の胸はキュンと鳴る。


1秒、2秒、3秒と目が合う。



不意に


“愛おしい”



そう思った。


なんでだろう。


夕日に照らされた横顔。


スラッと伸びた手。


前髪を無造作にかきあげる仕草。


先生の笑った顔。


そっけないけど。、本当は優しいとこ。


先生、私ね、先生の全部が好きなの。


何をしてても、先生を目で追いかけちゃう。


ふとした時に考えるのはいつも先生の事なんだよ?


そう、それは好きだから。


どうしようもないくらい好きなの。


“好き”って気持ちが積もって、溢れるの。


どうしたらいい?


先生に恋しちゃいけないってわかってる。


でも、好きって気持ちは誰にも止められないんだよ。


だからもう、私は、





私は…。









先生に溺れていく…。






「ねぇ。先生…。」










「好き…」

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