この数日間、初めての夜のこと、どんな人が相手なのかを想像して寝れなかった。
水揚げとは遊女にとって、一大儀式。
水揚げを嫌がるものなら遊郭から追い出さ、今後一切立ち入ることを禁止される。
正直怖くてたまらなかった。
そんな時、沖田さんの優しいことば。
『無理しなくていい』
たまらず涙が出そうになる。
「ありがとう……ございます。このご恩は……」
「かたいね。気にしないでって言ってるのに」
水揚げの日に、水揚げしないなんて、とんでもないこと。
なのに、とうの沖田さんはと言うと、
「はぁ、なんか気が抜けちゃったねぇ。とりあえず時間潰さないといけないからさぁ、飲み直そうよ」
なんてことを笑って言う。
「飲み直し……ですか」
「うん、そう」
「……あはは。いいですね」
だから、わたしも笑ってしまった。先ほどまでの緊張はどこへ行ったのやら。
わたしは、杯を持つと、沖田さんの隣に座った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。