「あ、きみも飲むつもり?」
「あたりまえです。まだまだ夜は長いですから」
「いいね、きみ。気に入った」
わたしたちは、夜が更けても飲んで、おしゃべりをした。
沖田さんは、ほんとうに無邪気で面白い人だった。
こんな人が、人を斬るなんて想像もできない。
ニコニコして、子どもみたいなのに。
夜が明けたころ、沖田さんは腰を上げた。
「また、来るね」
それだけ言い残すと部屋を出て行った。
ーー
ーーー
翌日、女将から褒められた。
「あんた、よくやったね。沖田様から聞いたよ。すごくよかったって言ってくださったよ」
「ぁ、ありがとうございます」
ホッとした。
沖田さんは水揚げが滞りなく済んだ、と女将にちゃんと言ってくれたようだ。
昨日、ただ飲んで話しただけだった。
ほんとうは何もされていない。
触れることも、口づけも何もなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!