「お、きた……さ、ん、……ッ」
「なに?」
ようやく沖田さんが顔を上げてくれた。
「あの……ッ、わたし……やっぱり……怖いです」
「それで?」
「えっと……それで、今日は……無理です」
「へぇ」
沖田さんはしばらくわたしを見下ろしていた。
その顔はどこか楽しげだった。けれど、眼だけは笑っていない。
心臓がバクバクと鳴る。
勝手なことを言っているのは百も承知。だけど、ほんとうに怖かった。
ーーお願い。沖田さん……許して。
わたしは、必死の思いで沖田さんを見つめた。
「きみはぼくをどう思ってる?」
突然の質問だった。
「え、」
「ぼくのこと。いい人だと思う?」
「それは……もちろん、いい人だと思ってます」
「あぁ、そう」
「はい」
「でも、残念だったね。ぼくは善人じゃない」
「え」
「だから、どんなにきみが嫌がってもぼくはーー」
沖田さんは、満面の笑みを浮かべて言った。
ぼくはきみを犯すよ、と。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!