第29話

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2017/12/06 03:08

「泣く顔、見てみたいし」


「沖田さん……っ、ま、まって……っ」


「なに?」


「あの……痛い……んですか?」


沖田さんがわたしを見つめる。


「どうかな」


そして、困ったように笑った。


「きみ次第。まぁ、ぼく次第でもあるのかな」


意味がわからない。

けれど、怖い。やっぱり怖い。


「は、はい……もう…………やめたいです」


「ほんと今さらだね」


「……十分承知です。どんな仕打ちも受けます。女将さんに言ってもいいです。……どうしても怖いんです」


わたしは、沖田さんをじっと見つめた。これまでにないほど、見つめた。沖田さんにこの想いが伝わるように、願った。

しばらくして、沖田さんが小さく息をはく。


「そんなに怖いの?」


「はい」


寝床をともにすることが、どういうことか、実際わたしは見たことがないわたしにとって、未知の世界。

それは、不安と恐怖の塊だった。

わたしは、ゆっくりと口を開いた。

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