「泣く顔、見てみたいし」
「沖田さん……っ、ま、まって……っ」
「なに?」
「あの……痛い……んですか?」
沖田さんがわたしを見つめる。
「どうかな」
そして、困ったように笑った。
「きみ次第。まぁ、ぼく次第でもあるのかな」
意味がわからない。
けれど、怖い。やっぱり怖い。
「は、はい……もう…………やめたいです」
「ほんと今さらだね」
「……十分承知です。どんな仕打ちも受けます。女将さんに言ってもいいです。……どうしても怖いんです」
わたしは、沖田さんをじっと見つめた。これまでにないほど、見つめた。沖田さんにこの想いが伝わるように、願った。
しばらくして、沖田さんが小さく息をはく。
「そんなに怖いの?」
「はい」
寝床をともにすることが、どういうことか、実際わたしは見たことがないわたしにとって、未知の世界。
それは、不安と恐怖の塊だった。
わたしは、ゆっくりと口を開いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。