なんだ…この熱さ…。
体が焼けるように熱い。頭がガンガンする。
全身に力が入らない。
どうしたんだろ、俺。
やけに重い瞼をゆっくりと開けようとした、
その瞬間だった。
耳元をくすぐる女の声にハッと我に返った。
開けた視界に飛び込んできたのは…。
黒いボブヘアー、澄んだ大きな瞳。
あぁ、李奈だ…。
…え、、
思わず飛び起きた。
見慣れた白い壁。
ドでかい薄型テレビ。
カーテンから注ぐ日の光。
モノトーンの飾りっけのない部屋。
見慣れたこの光景は、
間違いなく俺の住んでるマンションの寝室…。
でも…、
いつものベッドの上にいる、俺。
そしてその横に当たり前のようにいる李奈。
…いや、待って。
今どういう状況なわけ?
このあり得ない状況に、思わず声をあげたが。
そんな俺に、李奈は構わず言葉を続ける。
なんで俺の部屋にいるの!?
しかも、当然のように!!
そう俺が小声で李奈には聞こえないように言ったが、聞こえてしまったらしく、李奈はムスッとした様子でベッドの側に歩いてきた。
李奈は困ったように息をはいて、
俺の額にそっと手をおいた。
な、なんだコイツ…。
経験も乏しくて、
キスさえまともにしたことないくせに。
何で普通に平然と俺に触れてるんだ!?
あーわけわかんない。
ていうか、ここに李奈がいること事態、おかしい。
俺は今まで絶対に女だけは部屋には上げなかったのに…
それだけは絶対だったのに。
…李奈は女。そして、俺の部屋にいる…。
なんで!?
何も覚えてないよ!
そうだったのか。 だからか。
体がやたら熱かったのは。
てか俺が教えたんだな。
全然、覚えてないわ。
そう言って、
うつむいて申し訳なさそうな顔をする李奈。
…表情が本当にコロコロ変わるんだなー。
さっきまではお姉ちゃんに手出さないで!って俺に怒ってたくせに。強気だったくせに。
ビクビクして、悲しそうな顔したり。
かと思ったら、急に怒り出したり。
…変な奴。
そう言って李奈がトレーにのせて差し出したのは、
湯気を立てて良い匂いを放つ、お粥。
どこかで買ってきたのか、ペットボトルよスポーツドリンクまでも用意されてる。
そう言ってゴソゴソと、自分の鞄の中をひっくり返して中身を広げる李奈。
そう言って笑みを浮かべる李奈。
…無邪気な笑顔。
そういえば、レストランでもそうだったな。
コイツ、凄く楽しそうで。
本当に嬉しいんだなーってわかる。
うわべだけじゃなくて、心から。
色気のない子供だけど、
こういう純粋な笑顔がだれより似合ってる。
そんなことを思いながら、
いつの間にかそう呟いていた俺は、
多分李奈のおかしなペースと熱に冒されたんだろう。
キョトンとした顔で俺を見る李奈に、
もう一度そう言って、
ジッと熱っぽく、その黒い瞳を見据えて李奈の手首を強く握った。
…が、
その的外れな言葉に、ガックリと項垂れてしまう。
そう言った俺に、李奈の顔はボッと赤くなった。
必死になって俺の手を振りほどこうとする姿に、
思わず微笑む。
今まで大体受け身だったから、
こういうの何か新鮮で、案外、好きかもしれない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。