第21話

story *李奈side*
828
2017/12/27 06:37
耳を、疑った。
山田涼介
何勝手に帰ってんの。
俺、帰っていい。なんて一言も言ってないんですけど
そう言ったかと思えば、
ギュッと優しく後ろから抱き締められた。
その瞬間、自分の顔があっという間に熱を帯びていくのが分かった。
…こういうのって反則だと思う。
誰をも魅了する山田涼介が、
そんな風に、囁くようにそんなこと言うなんて。
こんなことするなんて。

何考えてるのか分からないし、
最低な人って最初は思ってたのに。
正直、本当の山田涼介は苦手で…嫌い。
そう思ってたのに…。
ドクン、ドクンと激しく高鳴る心臓の音に、
情けなさを感じてしまう。
好きな人にしかドキドキなんてしないものだと思ってた。だけど、この人を前にしたら、
そんな論理もどっかに吹っ飛んじゃう。
私をしっかりと抱き締めるこの大きな腕の力強さも。
表情も、行動も、何もかも全部が完璧に綺麗すぎるの。
この人は、
それを分かっててこんなことしてるのかな…。
こんなことされたら、
誰だって好きになってしまうよ…。
いくら私でも、勘違いしてしまうよ…。
広瀬 李奈
あ、あの…
抱き締められた体が熱くて、
高鳴る胸を抑えながら、声を振り絞った。
山田涼介
…よし。勝手に出てこうとした罰な
そう言ってようやくしっかりと抱き締めていた腕を緩めた。と思ったら
広瀬 李奈
っ、わっ!!!
私の体をいとも簡単に抱き抱えると、
ベッドの上へと優しく下ろした。
広瀬 李奈
ちょ、何するんですか!?
少し熱を帯びた綺麗な山田くんの大きな体が私の上に覆い被さる。

う、嘘でしょ!?
まさか、今度こそ私、本当に…
広瀬 李奈
や、やめて下さい!まだ、熱が…っ
山田涼介
へぇ、この状況で、
俺のこと心配してくれるんだ?
随分余裕じゃん?(笑)
まるで楽しむように山田くんは意地悪そうに言った。
広瀬 李奈
ちょ、
山田くんは、抵抗しようとする私の両手をまるで縛り上げるように大きな手で押さえつけた。
もうどうすることもできなくなった私は
覚悟を決めて、ギュッと目をつぶった。


山田くんってこんな力強いんだ。
身長はそんなに私と変わらないのに。
この力強い腕が山田くんは男の人なんだと教えてくれる。




…もうダメだ…。
そう思ったけど。
山田くんは、なぜだか一向に動く気配がなくて。
戸惑いながら少し目を開けてみると、
私の頭上で笑ってる山田くんの顔があった。
山田涼介
李奈って、マジでバカ(笑)
そう言って私の上からどいて、
お腹を抱えながら私の隣に横たわる。
広瀬 李奈
…へ…?
そんな山田くんをただ呆然と見つめる私に、
山田涼介
熱あってしんどいのに、
初めての女なんか抱いたりしませんよ
山田くんは、まだ笑ってる。
…もしかして。
もしかしなくても、私、からかわれた!?
広瀬 李奈
ひ…酷いです!
もう!いったいなんなの!?
さっきから"冗談"とかそんなんばっかだし…。
本気で怖かったのに!
こんな風にからかうなんてやっぱこの人最低だっ!
広瀬 李奈
もう!からかわないでください
ムッとしながら、
ふて腐れたようプイと背を向けたその瞬間だった。
急に背中に温もりを感じたと同時に、
ふわりと全身が甘い花の香りに包まれた。
広瀬 李奈
…え?
何が起きたのかわからず、そっと振り向けば、
私の体はまたさっきと同様、
後ろから山田くんに抱き締められていた。
広瀬 李奈
えっ、えっ…ちょっ…あの…
う、嘘っ…!
こんなベッドの上で抱き締められてる!?
あ、またからかわれてるのかも!?
広瀬 李奈
や、山田くん!?
山田くんの柔らかな髪が、私の首をくすぐって。
息が上がっているのか、
やけに熱い吐息が耳元をくすぐって。
あぁ、今度こそ私、本気でこの人に襲われるー…。
そう感じた。
山田涼介
ぁーヤバい
広瀬 李奈
えっ?
山田くんは苦しそうに顔を歪める。
山田涼介
なんか、寒い…
広瀬 李奈
え、だ、大丈夫ですか!?
やっぱり、まだ熱下がってないんだ…。
私、ちょっとタオル濡らしてきま…
そう言って身を起こそうとした、その時だった。
山田涼介
いいよ、ここにいて
山田くんの腕が私のからだを引き留めて、
今度こそ簡単に離せないくらいの力で強く抱き締められた。
山田涼介
何もしないから…
ちょっとこのままでいさせて
そう囁くように言って、
私の体をギュッと引き寄せた。
…じ、じっとしてろ!?
このままでいさせてって…そんな、
そんな、…いつまでこの状態!?
私の心臓が…もちそうにないんですけど…っ!!
山田涼介
フフッ。李奈って体温高いんだね
少し掠れた声でそっと耳元で囁くから、
ドクン、ドクンと私の心臓ばかりが速さを増していく。
広瀬 李奈
あ、はい。
私…体温めちゃ高いんですよ(笑)
山田涼介
そうなんだ(笑)
すげぇ良いフィット感(笑)
あれだな、李奈って…湯たんぽみたい
広瀬 李奈
湯たんぽ!?
私、湯たんぽ代わり!?
広瀬 李奈
もう、山田くん、いい加減に…
離してください!
そう言おうと思ったのに。
振り返れば、山田くんは既に目を閉じてスースーと規則正しい寝息を立てていて。
広瀬 李奈
…ね、…ねてる!?
寝ているにも関わらず、しっかりと回されているその腕を振りほどくこともできない。
ーどうしよう、とジッと山田くんの寝顔を伺う。
だけど一向に起きる気配はなくて。
気持ち良さそうに寝てる。

きっと仕事で凄い疲れてるんだろうなぁ。
最近はドラマの主演もしていて、
バラエティーなどにも出ているから…
その疲れが溜まってるんだよね…。
広瀬 李奈
…綺麗な顔…
間近で見る山田くんの寝顔に、
思わずそう口走っていた。
本当に、吸い込まれそうになるくらいだ。

"彼氏にしたいNo.1"
って今月のMyojoにも載ってた。
きっと日本中の女の子たちが、
この人のことを独り占めしたいんだ。
でも、今この人の寝顔を間近で見てるのは
世界中で私だけ。
そう思ったらなんだか独り占めしてしまった気分。
広瀬 李奈
ズルいよ…
Hey!Say!JUMPの山田涼介のことが好きなのに。
今、目の前にいる山田涼介のことを
好きになってしまいそうになるのを必死に制する。



でも、山田くんにとっては
私もただのファンにすぎないんだよね。
山田くんのファンの中の一人。
ただそれだけ。
山田くんはきっと、
すぐに私のことなんて忘れてしまうんだろうなぁ。

そんなただのファンな私が
ここにいていいんだろうか…。




ーそんなことを考えながら、
私はいつの間にか深い眠りに落ちていた…。

プリ小説オーディオドラマ