第22話

story *李奈side*
839
2017/12/27 12:53
ガタガタっと遠くから聞こえてくる物音に、
ゆっくりと目を開けた。
広瀬 李奈
…あれ…?
天井が、白い。
ベッドがやたらと広い。
…おかしい。
ここ、私の部屋じゃない!
広瀬 李奈
どこ!?
見慣れない景色に、思わず飛び起きて叫んだ。
…そうだ。
私の部屋じゃないんだ。
ここは、山田くんの部屋だ。
山田くんが急に抱き締めてきてそれから…
広瀬 李奈
私、抱き締められたまま寝ちゃった!?
嘘でしょ!?
なんて恥ずかしいことしてしまったんだ私は!
でも、ベッドの上には私しかいない。
部屋を見渡しても、
肝心の山田くんの姿が見当たらない。
どこいっちゃったんだろう。
山田涼介
あ、やっと起きた
部屋のドアが開いたと思ったら、
急に現れた山田くんの姿に、
私はボッと全身が熱くなるのを感じた。
広瀬 李奈
な、なんて…なんて格好して…
濡れた髪をタオルで拭きながら、
当然のように寝室に入ってくる山田くんは、
あろうことか、上半身裸で。
短パンを履いただけのその姿に、
思わず赤面してしまう。
山田涼介
ん?ファンなんでしょ?
ならこんなん、見慣れてるでしょ(笑)
山田くんは不思議そうにそう言って、
濡れた髪を拭きながら、
ゆっくりとベッドの端に腰かけた。


いやいや。
たしかに雑誌とかで見てはいるけども…。
雑誌の中から見るのと、目の前で見るのとじゃ
全然違うよ!
そんな恥ずかしげもなくそんな格好しないでほしい。
芸能人なら尚更だ。
こんなカッコイイ体を…。

私は山田くんに気づかれないよう、
こっそりと山田くんを見る。

雑誌の中でカッコイイなーと思ってた山田くんの体。山田くんって結構体鍛えてて腕の筋肉とか凄いんだよね。
あーこんな間近でみられるなんて……∥
山田涼介
何ジロジロ見てんの。
さすがに、はずいんだけど(笑)
広瀬 李奈
あ、あぁごめんなさい(笑)
ついつい…。
山田くんって腕筋凄いですね!
山田涼介
あぁ、うん!
一応、鍛えてるんでね(笑)
広瀬 李奈
ていうかあの…すみません。
私、寝ちゃったみたいで…
逞しく鍛えられた体を直視できず、
背を向けながらそういうと、山田くんは「全然」と短く返事した。
山田涼介
いい湯たんぽのお陰で、熱も下がってすっかり元気だし
ニコッと笑ってそう言う山田くん。
だから!その笑顔は反則だってばっ∥!!
山田涼介
うまかった
いきなり発された言葉の意味がわからずに「え?」と声をあげると、山田くんは「お粥」と目線をテーブルの方にやった。
テーブルの上にあったのは、
私が作ったお粥のトレーで。
綺麗に全部食べ終えられた、空っぽなお皿だけがそこに残っていた。
山田涼介
マジでうまかったよ。
李奈って、料理上手いんだな
そう、微笑みながら言う山田くんにフッと頬が緩んでしまう。
広瀬 李奈
…そうですか
そんな私を怪訝そうに横目で見て、
山田くんは言う。
山田涼介
何ニヤついてんの。気持ち悪い(笑)
広瀬 李奈
…だって、ただのお粥なのに料理上手いなんてそんな(笑)
山田涼介
…まぁ、確かにそうか(笑)
お粥なんて、たいした料理じゃないのに。
誰でもすぐ作れるものなのに。
そんな風に褒めてくれる山田くんがおかしくて、
クスクスと笑ってしまった。
山田涼介
笑うなよ!人が作ったお粥なんて食べたことなかったし、よくわかんないんだよ。だから、うまいんだなーって思ったの。
広瀬 李奈
えっ、お粥食べたことないんですか!?
山田涼介
いや、母さんのは、食べたことあると思う。
けど覚えてないよそんなこと。
遠い昔に食べた記憶がかすかにある(笑)
広瀬 李奈
遠い昔って…(笑)
山田くん、まだ20代なのに…?(笑)
山田涼介
"まだ"じゃなくて"もう"だよ(笑)
山田涼介
あ!てか李奈、大丈夫?!
山田くんがいきなり大きい声を上げたのでビックリして「え!?」と声を上げると、山田くんはベッド脇に置かれた時計を指差し、言った。
山田涼介
時間
ハッとして時計を見れば、
もう真夜中の12時近くになっていて…。
広瀬 李奈
う、嘘っ!?もう12時!?
ど、どうしよう!
門限はないけど…こんな遅くまで帰らなかったことなんてなかったから…心配されてるかも。

帰らなきゃ!
サッとベッドから下りて、
帰る支度をダッシュで始める。
そんな私の前に、山田くんは立ちはだかった。
山田涼介
家、どこ?
頭上から聞こえてきた声に顔を上げると、
山田くんはジャージの上を着て、
ジャケットをとった。
山田涼介
送ってやるよ
まさかの言葉に、思わず目を丸くする。
広瀬 李奈
で、でも…
山田涼介
李奈、まだ未成年でしょ?
こんな時間にウロチョロしてたら深夜徘徊になっちゃうよ。それに、足もないんだし
た、確かにそうだ。
もう終電も終わっちゃったし。
けど…
山田涼介
ほら、早く!
本当は、自分にブレーキをかけなければいけない。
この人とはもうこれ以上深く関わってはいけない。
そう心の中ではわかっていても、
この人に、私は拒むことができない。
広瀬 李奈
ま、待ってくださいよ~!
サッサと支度をして家を出ていこうとする山田くんを小走りに追いかける。



そんな山田くんの後ろ姿を見つめながら…


この時間がずっと続けばいいのに。


と、いつの間にかこの山田くんとの時間が好きになっている自分がいた。





でもきっと、これは恋なんかじゃない。

一時的なもの。

こんなカッコイイ芸能人が目の前にいたら誰だって
好きかもっていう気持ちになる。
私も今きっとその状態なんだよね。




これは、本当の恋なんかじゃない…。




そう、自分に言い聞かせた。

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