ガタガタっと遠くから聞こえてくる物音に、
ゆっくりと目を開けた。
天井が、白い。
ベッドがやたらと広い。
…おかしい。
ここ、私の部屋じゃない!
見慣れない景色に、思わず飛び起きて叫んだ。
…そうだ。
私の部屋じゃないんだ。
ここは、山田くんの部屋だ。
山田くんが急に抱き締めてきてそれから…
嘘でしょ!?
なんて恥ずかしいことしてしまったんだ私は!
でも、ベッドの上には私しかいない。
部屋を見渡しても、
肝心の山田くんの姿が見当たらない。
どこいっちゃったんだろう。
部屋のドアが開いたと思ったら、
急に現れた山田くんの姿に、
私はボッと全身が熱くなるのを感じた。
濡れた髪をタオルで拭きながら、
当然のように寝室に入ってくる山田くんは、
あろうことか、上半身裸で。
短パンを履いただけのその姿に、
思わず赤面してしまう。
山田くんは不思議そうにそう言って、
濡れた髪を拭きながら、
ゆっくりとベッドの端に腰かけた。
いやいや。
たしかに雑誌とかで見てはいるけども…。
雑誌の中から見るのと、目の前で見るのとじゃ
全然違うよ!
そんな恥ずかしげもなくそんな格好しないでほしい。
芸能人なら尚更だ。
こんなカッコイイ体を…。
私は山田くんに気づかれないよう、
こっそりと山田くんを見る。
雑誌の中でカッコイイなーと思ってた山田くんの体。山田くんって結構体鍛えてて腕の筋肉とか凄いんだよね。
あーこんな間近でみられるなんて……∥
逞しく鍛えられた体を直視できず、
背を向けながらそういうと、山田くんは「全然」と短く返事した。
ニコッと笑ってそう言う山田くん。
だから!その笑顔は反則だってばっ∥!!
いきなり発された言葉の意味がわからずに「え?」と声をあげると、山田くんは「お粥」と目線をテーブルの方にやった。
テーブルの上にあったのは、
私が作ったお粥のトレーで。
綺麗に全部食べ終えられた、空っぽなお皿だけがそこに残っていた。
そう、微笑みながら言う山田くんにフッと頬が緩んでしまう。
そんな私を怪訝そうに横目で見て、
山田くんは言う。
お粥なんて、たいした料理じゃないのに。
誰でもすぐ作れるものなのに。
そんな風に褒めてくれる山田くんがおかしくて、
クスクスと笑ってしまった。
山田くんがいきなり大きい声を上げたのでビックリして「え!?」と声を上げると、山田くんはベッド脇に置かれた時計を指差し、言った。
ハッとして時計を見れば、
もう真夜中の12時近くになっていて…。
ど、どうしよう!
門限はないけど…こんな遅くまで帰らなかったことなんてなかったから…心配されてるかも。
帰らなきゃ!
サッとベッドから下りて、
帰る支度をダッシュで始める。
そんな私の前に、山田くんは立ちはだかった。
頭上から聞こえてきた声に顔を上げると、
山田くんはジャージの上を着て、
ジャケットをとった。
まさかの言葉に、思わず目を丸くする。
た、確かにそうだ。
もう終電も終わっちゃったし。
けど…
本当は、自分にブレーキをかけなければいけない。
この人とはもうこれ以上深く関わってはいけない。
そう心の中ではわかっていても、
この人に、私は拒むことができない。
サッサと支度をして家を出ていこうとする山田くんを小走りに追いかける。
そんな山田くんの後ろ姿を見つめながら…
この時間がずっと続けばいいのに。
と、いつの間にかこの山田くんとの時間が好きになっている自分がいた。
でもきっと、これは恋なんかじゃない。
一時的なもの。
こんなカッコイイ芸能人が目の前にいたら誰だって
好きかもっていう気持ちになる。
私も今きっとその状態なんだよね。
これは、本当の恋なんかじゃない…。
そう、自分に言い聞かせた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。