ー何でこんなに拒むことができないんだろう。
別に拒んで何かされるわけでもないのに。
どうして私はこんなにもこの人と離れたくないと思ってしまってるんだろう…。
「はぁ~」と長いため息をつきながら、
車の窓から見える外を眺めた。
私の家は、山田くんのマンションから車で30分くらいの場所にあるらしい。
山田くんが運転する車で、
こうして送ってもらうなんて…。
あまりにも、恐れ多い気がして。
ふと、夜なのにサングラスをはめ、
車のハンドルをきる山田くんに目をやる。
やっぱどんな時でも周りを気にしなきゃダメなんだなぁ。サングラス外せるのなんて家とかくらい?
ふいにそう聞かれたのは、
きっと私が緊張でガチガチになって山田くんと1度も目を合わせようとしないからだろう。
だってこんな芸能人と車の中、
二人きりとか緊張しちゃうよ!!
綺麗な車内からは、
凄く大人っぽい良い香りがする。
山田くんがいつもつけてる香水の匂い。
ジャケットの袖を捲り上げて
ハンドルを握る山田くん。
もうその姿だけで絵になった。
思わずむきになって言った。
すると
なんて…バカにしたように言ってきたのです!!
あり得ない!!
私が一番言われたくないことをよくも!
私も少しバカにしたような言い方をして、
軽くべーっと舌を出してやった。
だって、そんな身長差ないんだもん私と山田くん。
150㎝と155㎝くらいじゃないかな?(笑)
山田くんはテメ…と何か言おうとして、
ストップした。
もしかして、テメーって言おうとしたのかな?
ひょっとして、
テメーって普段は使ったりしてるのかな?
別にそういう言葉使ってくれて全然いいのに。
むしろそっちの方が話しやすそう…。
山田くんが初めて、
ニカーッとクシャッと笑ってくれた…。
そんな山田くんを見ていたら、
なんだかまた胸がドキドキしてきて…
おかしくなる。
…そんな不純なことを考えていたら、
ふいに聞こえてきた山田くんの声に、
ハッと我に返った。
気がつけば、もう車は私の家の近くに来ていて。
私は慌てて鞄を握り直した。
そう言って、頭を下げ、シートベルトを外した。
…もう、きっと二度と会うことはないんだ。
会えるとしたら次のliveかな?
でもきっと、こうして二人きりで会うことはない。
そう、思った。
でもそれは別におかしなことじゃない。
むしろ、今の状況こそがおかしいんだし。
…だから、
こうしていることが夢みたいなことなんだよね。
それは分かってる。
分かってるの。
…でも、どうして?
少しだけ、寂しい気がして。
家に帰りたくない、なんて思えてしまって。
複雑や感情が、心の中にわきおこる。
…そんなおかしな自分を振り払うように、
ドアを勢いよく開けたその時だった。
私の体の横から伸びてきた大きな手が、
開いたドアをまた閉めてしまった。
山田くんの手…。
驚いたように山田くんの顔を見つめた私に、
山田くんは困ったような顔をして言った。
…その山田くんの言葉こそが、
悲劇の始まりだったんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。