李奈の学校を後にして、
マンションへ車を走らせた。
助手席に座る李奈はやけに静かで、
何だか悪いことをしたな。と、今更ながらに後悔。
沈黙を破って口を開いたのは部屋に入ってすぐだった。
ばつが悪そうに謝る俺を、李奈は不思議そうな顔で見上げてきた。
せっかく好きな男の子と一緒だった所を、
無理に連れてこられるとか…嫌だよな…。
これは絶対怒ってるだろう。
恨み言のひとつでも言われると覚悟を決めていた俺に向かって李奈が言った言葉は意外なものだった。
多分、なんで俺が迎えに来たのかも、
無理やり連れてきたのかも、
わかってないんだな。
鈍感にも程があると思うよ…。
そう言って考えるような仕草をする李奈に呆れたようにため息をつく。
いきなり大声を出した李奈に驚いた。
その瞬間、思いっきり腕を掴まれた。
そう言って意地悪そうにニコッと微笑む李奈。
可愛いなー…。
凄く嬉しそうにしてスキップしながら部屋を出ていった李奈の後ろ姿をじっと見つめた。
何か変なこと言うんじゃないよな?
李奈は玄関に置いてある自分の鞄を部屋におくと、
中からDVDを出してきた。
一緒にやりたいことって…俺と映画観たかったのか。
李奈はそのDVDを俺に見せないようにしてニコニコしながら部屋にあるDVDプレイヤーに入れ込む。
女子高生が観るものって…恋愛ものとかかな?
恋愛ものとかだと、俺寝ちゃう可能性大…。
なーんて考えていたら始まって、
李奈はどんな映画をみるんだろう。
とテレビに集中した。
《キャー!!!!!!》
テレビから爆音で聞こえてくる悲鳴?いや、歓声?のような声が聞こえてきた。
まさか…ホラー!?
いや、まさか。
李奈がホラー好きとは思えない。
そんな会話をしていると
《キャーーーー!!》
TVに何かが映り、人の声が聞こえてきた。
お!始まった!!と、姿勢を正して集中しようとした、その時…
《🎼~》
聞き覚えがある曲が流れてきた。
この曲は…
と、うっとりしながら言う李奈。
そう、これはHey!Say!JUMPのliveのDVD。
しかも最近発売されたばっかのやつ。
李奈は本気のファンなんだな…とわかる。
liveのDVDなんて5000円はするし、
これを持ってるのは相当…。
そして、
俺が隣にいることを忘れてTVに夢中になってる李奈になぜかムッとした。
と同時にHey!Say!JUMPの歌までも歌い出した李奈に驚きが隠しきれない。
…歌うまい。
それに、歌詞もしっかり覚えてる。
次々と流れていく曲を丁寧に歌っていく李奈に感心した。
そう照れたように言う李奈に、笑いながら
自慢気に言う。
二人目を合わせて笑いあった。
女とこんなことしたのは初めてだった。
一緒にliveのDVDを観て、
色んな話を笑いながらして、
こんな楽しい時間を過ごしたことなんかなかった。
それで、確信した。
ずっと心の中にあったあのモヤモヤが何なのかを。
俺は……
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。