今日はなんだか変な天気だなー。
雨が降ったかと思えばやんで晴れてきたり…
その繰り返し。
干した洗濯物も全く乾かないし…。
そんなことを思いながら俺は、
部屋のバルコニーから満月を見上げながら、
お茶を飲む。
由奈ちゃんが帰っていった後、
この部屋に訪れる者は誰もいなかった。
実はちょっと期待してたんだよね、
李奈が来るんじゃないかって…。
ずっと待ってたけど…やっぱ来なかったな。
LINEしても電話してもさっきから繋がらないし。
携帯電源きってんのかな?
それとも、、。
何だか胸騒ぎがして
机の上に置いてあった携帯を手にする。
画面を見ても何の通知もきていなかった。
LINEを開いても未だに既読がつかない。
もう一度だけ、電話してみて出なかったら
もうやめよう。
そう、李奈が電話に出てくれることを願いながら
携帯を耳に当てた。
…出てくれますように。
不安を抱えたまま、発信ボタンをおす。
そして数回コール音が鳴った後、
もう出ないのかと諦めかけたその時…ー。
携帯から聞こえてきた、か細い李奈の声。
声を聞けただけで、胸が詰まりそうになった。
言葉を発しない李奈に、焦りが募る。
いつもなら"全然大丈夫だよ~"
とかって笑ってるのに。
いつもと違う態度取られると、
何だか変な胸騒ぎがしてならない。
俺が言おうとしたその時。
携帯から鼻をすする音と、嗚咽が聞こえてきた。
そう強気な口調で返ってきた声に、
眉を潜める。
嘘だ。声、震えてるし。
少しの沈黙の後、
急にザーザーザという雑音が聞こえてきた。
雨…?
外を見るとまた雨が降ってきていた。
それも、どしゃ降り。
携帯からやたら雨の音が聞こえてくるような…?
もしかして…
弱々しいその声に、言葉が詰まった。
俺の言葉を遮るように、聞こえてきた李奈の罵声。
こんな罵声、初めて聞いた。
そう問うけど、李奈からの返事はない。
…李奈、ひょっとして誤解してる?
もし、
李奈が誤解してるんならちゃんと話さなきゃ。
でも由奈ちゃんから今日の話、聞いてないのかな?
その度にこうやって泣かれては困る。
芸能界でやっている以上、こういう噂は絶たない。
"芸能人じゃなければ良かったのに"。
その言葉に、
耐えられない程、胸の奥が苦しくなる。
俺は李奈が好きだけど、芸能界も好きだ。
やめることはできない。
二つとも手に入れたいって思うのはいけないこと?
ふいに、ツーツーツーという機械音が聞こえてくる。
その音で李奈が電話を切ったんだと分かる。
電子音が虚しく耳に響くだけ。
いつも、俺のことが第一で。
デートというデートもしたことないし、
いつも周りを気にしなきゃいけないし…。
李奈はきっと毎日のように連絡を取り合えて、
学校帰りに公園デートしたり…
そういうのが良いんだろうな。
かなり、我慢させてきたんだと、
何もできない自分にイラつく。
どうして俺はこんなんなんだろ。
なんで好きな女1人幸せにしてやれないんだろう。
結局、自分のことが大事なんかな、俺って。
俺はどうすればいいんだろう?
どうしたら、李奈を幸せにできる??
李奈はもしかしたら俺と一緒にいるより、
他の一般人と一緒にいる方が幸せなのかもしれない…
それでも、俺は…
どうしても李奈の声が頭から離れなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!