第43話

story *李奈side*
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2018/01/14 09:51
"涼くんが芸能人じゃなければよかったのに"

自分が言ってしまった言葉が、
何度も頭の中を駆け巡った。
手の中に握りしめた携帯に、
ポツリと涙がこぼれた。

私…酷いこと言っちゃった…。
ほんっと、最低…。
本当は分かってる。
ミミちゃんとのことはただの噂だってこと。
でも、何でかな。
止められなかった。
ドンドンと思ってもいない言葉が出てきちゃって。
気づけばそう、言っていた。

きっと嫌われちゃったね私。




あんな噂流されて
仕事に影響がないはずない。
涼くんが一番大変で、辛いはずなのに…、。
ごめんなさい…。




あのね。涼くん、聞いて?

今日ね由奈ちゃんに勝手に携帯見られてたんだよ。
それでね、私と涼くんの関係バレちゃった。
でもね、由奈ちゃんは優しいから。
優しい人だから、許してくれたんだ。
相談にも乗ってくれたし…
本当に良いお姉ちゃん持ったなーって自分でも思うくらい。良いお姉ちゃんなんだよ。

それとね。
涼くんとミミちゃんの噂は結構前から耳にしてて
知ってたんだ。
でも我慢してた。私が彼女なんだから大丈夫だって
自分に言い聞かせてた。
でも、ファンの子たちのコメントとか見てたら
自信無くしちゃった…。

私なんてただの気まぐれだったんだ。
きっと、ただの遊びだったんだ…って。
自分が惨めで、情けなかった。


私、自分からもう無理!って言ったくせに
やっぱり、涼くんがいないとダメみたい。
日に日に、好きになって。
ブレーキかけられずに、想いは膨らんでく一方で。
どうしたら自分が止められるのか、わからなくて。
広瀬 李奈
…涼くんっ…
その名前を呼ぶだけで胸が苦しくなる。
手の届かない人を想うことが、
こんなに辛いなんて、
知らなかったよ…。
そして、何よりも惨めでしょうがなかった。




李奈~!早く支度しなさいよ~
次の日の朝、いつものようにお母さんの声が、
1階から聞こえてきた。
私は急いで制服のネクタイを結んで、
鞄を取り、1階にかけ降りた。
そして、リビングに足を踏み入れた時、
由奈ちゃんが目に入った。
ドクン、と鼓動が飛び跳ねる。
そういえば、由奈ちゃん。
昨日涼くんに会いに行ったんだよね…
帰り遅くて私先に寝ちゃったけど…。
何を話してきたのかな。
李奈?どしたの?
立ちすくむ私を変に思ったのか、
キッチンから顔を出して、
不思議そうな顔をするお母さん。
だけど私は、無理矢理笑顔を作って首を横にふり、
"なんでもないよ"と言って由奈ちゃんの隣に座った。
広瀬 由奈
おはよう
広瀬 李奈
お、おはよう
隣に座る由奈ちゃんは、
いつものように挨拶をしてきたので驚く。
よかった…由奈ちゃんとケンカにならなくて。
涼くんともケンカしちゃって、
由奈ちゃんとまでもしてしまったら…
相談できる人がいなくなってしまう。
広瀬 李奈
ごちそうさまでした!行ってきます!
私は早足で家を出た。





紗綾
にしても、良かったね~李奈
昼休みの教室。
机を向かい合わせにして昼食を取りながら、
紗綾は言った。
夏希
ほんとだよ。あの山田くんと付き合えちゃうなんて
広瀬 李奈
う、うん…
二人とも、昨日のことは何も知らない。
付き合ったっていう話をした時は、
二人とも凄く喜んでくれて…嬉しかったなぁ。
けど、昨日のことは…言いにくい。
紗綾
羨ましい!
あ、ねぇ、大ちゃんに会えないの!?
広瀬 李奈
あ、あぁ。有岡くんかぁ。
一応、Hey!Say!JUMP全員とLINE交換だけはしてるんだけど
そう言って携帯をポケットから取りだし、
LINEを開く。
そして【有岡 大貴】をタップする。
紗綾
え、まじまじ!?やばい!!
夏希
えぇー!!!!
紗綾
まじ、うらやまだわ
そう言って唇を尖らせる紗綾にどうしたらいいかわからずとりあえず笑う私。
紗綾
ちょ、今なんか送ってみてよ
紗綾の言葉に、思わずうつむいてしまった。
LINE交換しただけで特に話してるわけじゃないし…
それに、涼くんのことがあるから話しづらいよ。
そんな事情を知らない二人はHey!Say!JUMPの話で盛り上がってしまっている。
このまま隠し続けるわけにもいかないけど…
でも、こんな浮かれた二人に、
本当はもう終わっちゃった。
なんて言えるわけない。
…肩を落として、
黙々とお弁当を食べていたその時…ー。
クラスメイト
ちょっと皆聞いてー!!
教室に入ってきたクラスメイトが、
急に大声を上げた。
クラスメイト
Hey!Say!JUMP山田涼介、
熱愛スクープだって!
…え?今、なんて…?
クラスメイト
えぇ~嘘でしょ!!
クラスメイト
熱愛!?相手だれ!?
教室が急にざわめき出して、
クラスの女の子たちが皆次々に声をあげる。
クラスメイト
マジっしょこれは!
ほら、ここ載ってるの
いったいどこから持ってきたのか、
週刊文春を広げながら声を上げたクラスメイト。
その言葉に、教室にいた女の子たちが一斉にどよめいて、周りに群がった。
クラスメイト
うわ、これはマジなやつかも
クラスメイト
お相手は…人気急上昇中のカリスマモデルだって!
口々に声を上げる女子たちに、
思わず心臓が飛び跳ねた。
涼くんの…熱愛スクープ?どういうこと?
この前まではHappinessのミミちゃんだったでしょ。
今度はカリスマモデル??
なんか、ゴチャゴチャじゃん。
本当に、涼くんが言ってたようにこういう事はよくあるんだなぁ。
ん、…カリスマモデル…?
それって、まさか
紗綾 & 夏希
どういうこと?
紗綾と夏希ちゃんは、怪訝な表情で私を見る。
そんな二人に、私は思わずうつむいてしまった。
紗綾らそんな私を見かねた様子で席をたち、
騒がしい女の子達の輪の中に入っていく。
そして週刊文春を手にして、私の所に戻ってきた。
夏希
…この、人って…
開かれたページには、大きく書かれた
"山田涼介(24)熱愛"の文字。
そして…。
紗綾
あんたのお姉ちゃんじゃないの?これ
仲良さそうに肩を並べて、涼くんのマンションの入り口から出てくる二人の姿がページ一面に載せられていた。




夏希
…李奈ちゃん
…ー呆然と、
その写真を眺めることしかできなかった。
目の前が真っ暗になって、
心臓がおかしいくらい音を立てて…。
急に突きつけられた現実に、体が震えた。
…今度は由奈ちゃんと…。
二人は私の知らない間に付き合ってたの?
そういうことだよね?
これがいつ撮られたものなのかは分からないけど、
多分これは最近のもの。
よく考えてみれば、
涼くんは最初、
私じゃなくて由奈ちゃんを狙ってた。
二人は仕事で出会って仲良くなって付き合っていた。…おかしくないよね。
紗綾
李奈、まさか…このこと知らなかったの?
蒼白となった私の顔を覗き込む、紗綾と夏希。
だけど、この時の私の頭の中は真っ白で。
残酷な現実をまだ受け止められなくて。
返事ひとつできなくて。
ただただ、二人の声を聞きながら、
こぼれ落ちそうになる涙を必死に堪えるので精いっぱいだった。

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