その日の放課後、靴箱には奴が立っていた。一瞬目があったけど、声はかけなかった。普段から、私から声をかけることはない。そのまま素通りして帰ろうとした。
「あのー、見ませんでしたかー?」
靴をはこうとしている私に春樹が声をかけてきた。
「誰を」
「あのー、ほら、あの人」
本当はわかっていた。奴はふうちゃんを待っている。私が帰る時、ふうちゃんのクラスの前を通り過ぎると、ふぅちゃんは委員会の仕事をしていた。
「ふうちゃんなら、委員会の仕事してたよ」
「あ、そうですか。あざーす」
胸のあたりがもやもやした。一つは奴がふうちゃんの名前を呼ばなかったこと。『あの人』という呼び方は、距離を感じるようだけど、素直に名前で呼ばないことで、見ている私からしてみると、本当に付き合ってるんだな、という気持ちにさせた。もう一つは、私がふうちゃんの名前を出した時、顔が赤くなって、委員会の仕事をしていると分かってから、落ち着きなくふうちゃんが来るのを待っていること。
どちらも胸が苦しくなって、無意味に叫びたくなった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。