「あなたー!!」
靴箱からユリが走ってくる。それに手を上げて答える。
「ごめんねー、寒い中ー」
「大丈夫、帰ろっか」
歩き始めて5分ぐらいたった頃、唐突に言われた。
「シュンと付き合ってます!」
ほんとに受験がはじまるねー、なんて受験生らしい会話をしていたのに、少し大きめの声で急に叫ばれたから、驚いた。
「へ?あえ?」
アホみたいな声が漏れた。
「シュンと付き合ってるの」
今度は聞き取れないくらい小さな声で。情緒不安定かよ、とつっこみたくなる。
「シュンと?」
私の問いかけに小さく頷く。
「いつから?」
「正月」
「1月1日?」
今度は大きく頷く。本当に情緒不安定なのか。
「なんで?」
「初詣、一緒、行って、帰り、好きって」
今度はカタコトの外国人になった。
「言ったの?言われたの?」
「言われた」
必要最低限の言葉しか発してくれないので何を考えているのか分からない。けど、何かあるのは確かだ。ただ、彼氏が出来たことを自慢したいだけなら、今みたいに、下を向いたまま急に立ち止まったりはしないだろう。
「どした?」
「……………」
ついに言葉を発さなくなった。このままでは埒が明かないと思ったからとりあえず聞いてみた。
「うちくる?」
いつものノリなら、「いくいく!」と返してくれるんだけど、今日はただ頷くだけだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!